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2015/01/05

m285

……行きたく、ない。

携帯電話のアラームを止めて、ベッドの中で寝返りを打つ。
早めにセットしてあるのは年明け早々遅刻することはできないからで、つまり仕事がある、行かなくてはならないということくらい重々自覚している。何しろ年末に無理やり納めた……というか本当は全然納まっていない仕事のことが次々と脳裏をよぎり、昨日はなかなか寝付けなかったくらいだ。

とはいえいつまでもうだうだしていてもどうしようもない。
おれはサラリーマンなのだし、その給料で生活しているのだし。
えい、と覚悟を決めて起き上がると、やけに重たい足を引きずって洗面所へ向かった。

 

昔から、休み明けが嫌いだった。
しっかり者の子や計画性のある級友たちは早々に課題を仕上げて海だプールだ祭りだと楽しんでいるのに、特に何もしないまま漫然と惰眠だけをむさぼっているこちらは最後の数日で半泣きで徹夜するのが当たり前。
その癖は社会人になってもなかなか改まらず、納期の直前にならないと手が動かない。
もちろんサボっているわけではないが、毎日何かしらの締め切りに追われている間に年末が来て、今度は年賀状だ大掃除だと騒いでいる間になんの感慨もなく新年を迎えてしまった。

満員の電車の中にはおれと同じようなくたびれた感じのサラリーマンや身ぎれいにしているOLなんかで溢れていて、見慣れた改札を抜けても別段改まった感じもしない。
年始ってそんなもんかなぁ、と思いながらエレベーターに乗り込むと、急に目の前が華やかになって一気に箱の中が狭くなった。

「あ、ごめんなさい。ぶつかっちゃいました?」

いいえ、と答えながら思わず顔を見る。
去年入った受付の子だ。着物に慣れていないのか、重たそうな袖を揺らせている。隣にいるのは見ない顔だが、彼女は営業部署の子なんだろう。
年明けの初日、外部の人間と接する新入社員の女の子たちは振袖を着て出勤するようにという申し送りがあったのを、今の今まで忘れていた。こちらは男だから忘れてたっていいのだけれど。

 

「きれいだね」
「ありがとうございます。振袖なんてって思ったけど」

 

こんなことでもないと着る機会ないですし、と営業の子が笑う。早くから美容室に行ってきたんですよ、と教えてくれた受付の子は帯が重たいのかさっきからしきりに後ろを気にしていて、なんだかほほえましく思えた。

新しい年。

なんだか急にそれが来たみたいな気がして、鼻歌を歌いながらエレベーターを降りた。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

 

2015/01/05 07:34 | momou | No Comments