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先月の28日の夜中に漁師から電話が来て、
『「ワニ」が採れたけど、いる?』
と言われた。
ワニ。アリゲーター。カイマン。皮をとってサイフにするのか?
最近、世間では良く聞く「魔法の言葉で楽しい仲間がポポポッポン~!」の「こんばんワニ」だ。
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漁師にとっての「ワニ」とは「凶悪ザメ」だということはボクは経験上わかっていた。
「今日は網に入ってきて大暴れする大ワニと船上で格闘して、デカ包丁でブッタ切って海に捨ててやったぜぇ!!」
とコーフンして話す漁師に何度か遭遇したことがあった。
凶悪ザメを水族館用として持って来てもらうのはウレシイのだが、時と場合による。水槽の空き状況やサメの状態、種類、何よりもサイズ。サイズが大きいと、我が小さな水族館の小さな水槽には入らない。
「大きさはどれくらいですか!?」
真っ先に聞いた。
「ん?状態はいいぞ!」
「そうですか、で、サイズは?」
「おぉ、港に帰るのは11時すぎくらいだな」
「そうですか、で、サイズは?」
「擦り傷とかそんなにないぞ…、そんなに~…、大きくないぞ…」
「…また大きいの持ってくる気だなぁ」
「いや、そんなに…大きくないよ、1メートルないくらいカナ…」
漁師はウチの水槽のサイズを知っている。しかし、お構いなしで楽しそうな生き物が網に入ってくると大きなものでも楽しそうに電話をしてくる。タタミ3畳くらいのマンボウを持ってきたこともあった。2匹。困っているボクを見て笑うのである。嫌がらせである。
漁港へ着くと、船は帰港していた。すぐさま、甲板に設置してある水族館用の専用活魚タンクを覗くと、デカイ鮫が丸まって、というか折りたたまれて身動きが出来なくなった状態で入っていた。
「ワニだ。でかいな。…すまん。」
半笑いで漁師は言った。
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狭いタンクの中で折りたたまれたワニを出すのが一苦労だった。何しろワニ=凶悪ザメである。捕獲されて船上へ揚がったものをタンクに押し込むのも漁師はかなり苦労して格闘したそうである。
早く水族館へ運ばないと弱ってしまうので、しばし、呆然とタンクを見つけめた後、我に返ってシッポを捕まえてタンクから引きずり出して、トラックに積んだ運搬用タンクへ移し変えて、水族館へ運ぶ。トラックのタンクへ移すとき見たそのサメは牙がものすごく、そして1メートル以上あった。やや弱ってるようでおとなしかった。
翌日、名前を調べると
「オオワニザメ」
というやつだと判明した。
さらに調べると、日本の水族館で生きたままで展示している水族館はない、感じだった。標本展示は神奈川の油壺マリンパークにあるみたい。
速攻展示。ヤッホイ。
モンスター級巨大タカアシガニも入っているので、水槽が小さい。狭い。
先月の29日に展示を開始して、これまでエサとしてアジやイカゲソをあげてみたが、完全無視で食べる意欲を見せなかった。なんとなく弱っているようで戦意喪失気味、おい、しっかりしなさい、凶悪ワニだろーが!と水槽越しに連日「気」を送った。
細い棒にアジを指して、口もとに持っていって差し出しても、完全無視、口に軽く押し付けると、怒って水槽を暴れまわる。困ったものだ。
生き物の飼育で一番困るのが「エサを食わない」ということだ。なんでも食ってくれれば体力も付くし、調子も上がってくる。
このままではそのうち死ぬので、4月7日に最終手段の「強制摂餌(きょうせいせつじ)」をしてみた。口をあけて強制的にエサを口の中へ入れて飲み込ますのだ。
スタッフの戸舘君に手伝ってもらい、鼻っ面をとっ捕まえて口をあけ、アジを口の中の奥のほうへ放り込んで、海水も口の中へドバドバと流し込んだ。キバが凄くて、今コイツが凶悪に暴れたら、必ず血がでるな、と思ったが、ヒルまずに、
「吐くなよぉ!吐くんじゃねぇぞぉ!!」
と、ドスを効かせて凶悪ザメを睨みつける凶悪飼育員のお兄さん。
その甲斐あってか、凶悪ザメはアジを飲み込んだようであった。ちょっと安心。
でもまだまだ予断は許されない。
日本でウチの水族館だけにしかいない独占展示公開である!
激レアのスーパー貴重ザメです。
死んじゃうかもしれんから、早く見に来てね。
隣りの水槽には、これまたおそらく全国で唯一の展示?と思われる深海のサメ「ツマリツノザメ」も展示した。こちらは30cmほどの小さいサイズでやや減圧障害があるがエサもよく食べている。