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世の中には2種類の人間がいる。クリーニングを出すものと、そのクリーニングをするものだ。
……そして、俺は後者だ。
毎日毎日、飽きもせずに持ち込まれるたくさんの洗濯物の山を受け取り、料金を計算して預かり、工場へ回して戻ってきたら棚に掛けてお客さんがくれば返す。繰り返し繰り返し、この工程をする。毎週月曜から水曜、土日が俺の担当だ。
三か月前までは、前者だった。
契約を切られ、手に職もない四十過ぎの男が失業手当を食いつぶすのはあっという間のことだった。自分が今までしてきた仕事が評価されることは全くなく、求人はたいてい年齢を理由に撥ねられた。職安からは重機の免許を取るように勧められたが、講座の開始日時にはまだ間があり、俺はうちから二番目に近いスーパーに併設されたクリーニング屋の張り紙を見てバイトをすることにした。一番近いところには今まで何度もワイシャツを出しに行っていたが、そこにはいつも同世代くらいのオバちゃんがいるばかりで、あのオバちゃんが出来る仕事なら俺でも出来るだろうと思ったのだ。
それは体力的な意味でということだったが、実際はどちらかというと神経を使う仕事だった。そして、働き出して3日後には、オバちゃんに深い深い敬意を払うことになった。
客から預かった衣類は、たいていどこかしら汚れている。その汚れの見落としはクレームになるからと最初のころは何度も何度も確認させられた。また、どんなに清潔そうな服を着てしっかりしていそうな女が持ち込んだ洋服でもかならず一度はポケットの中身を調べなければならない。小銭、釦なんかは序の口で、スカートのポケットに煙草の吸殻があるという最悪のパターンもある。このまま出せば、すべてのクリーニング品が洗いの段階で台無しになる。この仕事を初めて早々に、俺は女に対するうっすらとした幻想を打ち砕かれることになってしまった。
が、覗き見的な楽しさも、当然ある。
まじめそうなサラリーマンの出したシャツの胸ポケットからいかがわしい感じの名刺が出てきたり、いかにも派手そうな女の子が持ってきたのがちょっと親父が入った背広だったり。家族の分を取りまとめて出すのだろう、おっとりとした感じの奥様が出す品物の世代感が見事にばらばらだったり。
クリーニング屋の、このカウンターに入ってみないと見えないことは確かにある。
「こんにちはー。受け取りとクリーニング、お願いしますね」
顔見知りの奥さんが挨拶をしながら入ってくる。この奥さんの家族構成も服の趣味も知ってる俺は、なんだか妙な気持になりながら愛想のいい笑顔を作った。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。