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先日、我が日舞のお稽古場での浴衣浚い会が行われました。
“浴衣浚い”とは、邦楽関係のお稽古場において、夏の時期に行われるおさらい会、発表会のことで、本衣装ではなく、簡略的に浴衣を来て行うことからその様に呼ばれると思われます。
一般的な浴衣浚い会は、劇場などを借りて、チケット代を取って(無料のケースが多いですが)お客さんを呼んで行う、公演の様なものですが、我々のお稽古場の浴衣浚い会は、少し趣が異なります。
うちの場合は、普段お稽古をしている場所と同じお稽古場にて、身内だけで行われるのです。
踊る演目も、1曲まるごとではなく、そのときにお稽古している曲の一部分です。
そして、踊り終わった後には、稽古の日々のことや、近況など、軽くインタビューを受けます。
日頃のお稽古の成果を、外部のお客様にお見せするのではなく、仲間同士でお互いに見合うのです。
普通の浴衣浚いであれば、自分の準備やらお客様への応対やらで、客席から見られる仲間の踊りの数も限られてしまいますが、うちの浴衣浚いでは、実質仲間の踊りを全て見ることになります。
そして、衣装は全員お揃いのお流儀の浴衣を着て踊るのです。
日舞のお稽古場では、定期的にお揃いの浴衣が作られます。
お揃いの浴衣を購入する…と聞くと、MサイズとかLサイズ等と大きさを指定して、スポーツのユニフォームをお店に発注する様なイメージをもたれるでしょうか?
浴衣の場合は少し違って、まずお稽古場全体で、浴衣の材料となる反物を大量購入し、自分の分の反物をお弟子さんが購入し、それを自分のサイズに併せて仕立てに出すのです。
もちろん、お稽古場にて、反物の購入から仕立てまでを一括でまとめて受け付けることが多いかと思いますが、中には、とりあえず反物だけ購入しておいて、浴衣として仕立てていない人などもいたりします。
また、最近入門したばかりだけれど浴衣浚いに出ることになり、まだ浴衣が用意出来ていないということもあります。
浴衣もそれほどすぐには出来るものではなく、仕立ての業者さんが混み合っていたりすることもあるので、なんとか本番までに間に合わせなければと、知り合いのツテで仕立てが出来る人に頼めないか、頑張ればミシンを使って自分で縫えるのではないかと仕立て方を調べたりと、本番近い時期になると、慌ただしくなったりもします。
やっぱり、一門が全員お揃いの浴衣を着て、仲間としての連帯感を持つことが出来るのが何よりですから。
(うちの稽古場はお揃いでやりますが、もちろん、それぞれが自分の浴衣でやるところもあれば、流儀によっては、同じ流儀の中でもデザインが何パターンかの中より選ぶことが出来るそうです)
日舞のお稽古場のほとんどは、師匠と弟子とのマンツーマンでお稽古が行われます。
ですから、同じお稽古場に通っていても、お稽古場に来る時間帯が異なる人だと、下手すると、浴衣浚いのときにしか会わない人なども出てきます。
また、今はお稽古場に通っていないけれど、この日だけは顔を出すという人もいて、そんな人達と、終わった後に懇親会も行う、うちのお稽古場の浴衣浚い会は、年に一度、一門の絆を確かめ合う様な会でもあります。
何しろ、古典芸能のお稽古場では、名取になれば苗字も同じになるわけですから、同門の仲間達には家族の様な繋がりがあるのです。
そしてもちろん、ただ仲間内でワイワイ楽しくやれれば良いというわけではありません。
浴衣浚いは成長するための試練でもあります。
特にうちのお稽古場の場合、観客がお弟子さんと師匠しかいないので、客席にいるのは、全員踊りに関しての玄人ということになります。
一般のお客さん相手なら、仮に間違えたとしても、間違えたという顔をしなければ分かりません。
しかし、同じところに通って同じ振りを知っているいる人達が観客だったら、ミスをしたらすぐにバレてしまいます。
その緊張感の中で、ノーミスで踊りきることはもちろんですが、ミスをしたとして、それがお客さんにバレバレだと分かっていながらも平然と踊りきることには、それなりの度胸が必要となります。
酒井はわりとそういう度胸はあるかも知れませんが、次こそはノーミスで踊ろうと、毎年思ってしまう浴衣浚いでした。
次回は、「結婚披露宴を演劇に置き換えると…」(ブライダル)をテーマにしたコラムをお届けします。