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2011/03/25



東北地方のレイさん(仮名・34歳)から、家族へのカミングアウトの相談を受けたのは、昨年(2010年)末のことでした。
レズビアンであるレイさんは、東京の大学を卒業後、実家のある東北地方に戻り、地元の金融機関に就職しました。
子供の頃から学業優秀で、家族や親戚も自慢するほど、地元ではちょっとした知名度を誇ったそうです。
そんなレイさんは、大学を卒業後に東京で就職するものと思われていたのに、地元愛から地元に戻るという決断をしたため、家族や親戚は驚きながらも大変喜んでくれたそうです。
3人兄弟(兄・レイさん・弟)のレイさんは、既に地元から離れて生活している兄弟に代わり、両親の面倒をみることも考えての帰郷でした。

就職したレイさんには、会社の上司や親戚から、色々な縁談が持ち込まれてきました。
『才女』ということを意識されているのか、一般的にはとても良い条件の縁談がほとんどでした。
しかし、レイさんはレズビアン。異性と結婚する気は全くないそうで、将来的にも自立して生きていくために、就職後もひたすらキャリアアップする努力を怠りません。
そんなレイさんのことを、会社の上司や同僚は「仕事と結婚した女」と冷やかしながら、徐々に縁談を持ち込まなくなっていったそうです。

でも、心配したのは両親です。
親想いで優しくて、何の問題も無い娘が、来る縁談を片っ端から断っているという状態を、さすがに不思議に思われたのでしょう。
しかし、娘がレズビアンでは?という発想には至らず、年老いた両親を残して嫁ぐことをためらっているのではないかと考えるようになったそうです。
年老いたと言っても、レイさんのご両親はまだ60歳代半ばの年齢。まだまだお元気です。
それなのに、両親揃って入れる介護付きマンションや高齢者専用住宅を探し始めたのです。
驚いたレイさんは、両親の誤解を解くために、家族(特にご両親)にカミングアウトをするかどうか悩んでいました。
親の期待に沿い、またそれ以上の成果を挙げてきたレイさんは、もともと両親へのカミングアウトには大きな抵抗がありました。
できればカミングアウトしたくないと思いながらも、両親の誤解を解くにはそれしか方法が無いのかと、半ばあきらめに近いような気持ちでカミングアウトに踏み切ろうとしているところでした。

私はレイさんと何度もメールのやり取りをしながら、レイさん自身の将来設計や家族と築いていきたい関係についてお聞きしました。
そうした中で、最初にご両親にカミングアウトするのではなく、お兄さんにカミングアウトすることになりました。
レイさんは、お正月に帰省したお兄さん夫婦に、思い切ってカミングアウトをしました。するとお兄さんは、驚きながらも、妙に納得した様子で「大切な妹であることは変わらない。気にするな」と言って受け入れてくれたそうです。
さらに、お兄さんの奥さんは、「レイちゃんやったら、私、付き合いたいわ~」とノリノリの返答だったそうです。が、レイさんがご遠慮したいとのこと(焦)
そんなわけで、お兄さんに対するカミングアウトはとりあえず成功したのでした。

外堀から埋めていくという作戦で、次は弟にカミングアウトしようという段取りになっていたのでしたが、何と、お兄さんが先に弟に話してしまいました。
レイさんが、弟を呼び出して、あらたまって話をしようとしたところ、「もしかして、お姉が、女の人が好きって話? 兄ちゃんから聞いてるけど…」という具合にあっけらかんと言われたとのことです。
それでどう思う?と問い返したところ、「別に」とエ●カ様みたいに、素っ気なく返されたそうです。
これについてレイさんは、弟らしいと思ったそうです。

いよいよ外堀は完全に埋まり、本丸の両親に迫ります。
ですが、ここであらためて、両親にカミングアウトすることについて、それでいいのかどうなのか、両親の言動を過去にさかのぼって振り返り、出来るだけ、ショックの少ない形で何とかできないかということの検討をしていました。
レイさんとしては、兄弟にカミングアウトして、とりあえずは無事に受け入れてもらえたことで、一定の満足感はありました。
ただ、両親が兄弟のように受け入れてくれるかどうかは未知数だったために、その先に進むことをどうしても躊躇してしまいます。
カミングアウトは、結果を重視して考えれば、必ずしも『善』ではありません。場合によっては、それをしない方が良かったという事も多々あります。
レイさんは、自分の両親の場合はどうだろうということを、日々考えていました。

「とりあえず、暖かくなってから、両親へのカミングアウトをしようと思います」
これが、2月末にレイさんと交わしたメールです。

そして、3月11日の東北関東大震災の発生。
私は、少し前までメールのやり取りをしていたレイさんのことが気掛かりでなりませんでした。

そして先日、レイさんからメールが届きました。
レイさんご一家は、全員が無事であるとのこと。家は全壊したが、他県の親戚の家に両親と避難が完了したとのことでした。
さらに、避難していく道すがらに両親へのカミングアウトを済ませたとのこと。
両親からは「生きているだけで十分だ」と言われたとのことです。
レイさんご本人は「まさに、どさくさに紛れてカムアウトしちゃいました」と若干恐縮した様子。
でも、ご両親が凄い。「お前は生き残ったのだから、同じような境遇の人(レズビアンを指しているそうです)で、この地震で苦しんでいる人のために何かしないとバチが当たるぞ」との厳命が下り、レイさんは、震災が原因で連絡が取れなくなり離れ離れになっているレズビアンカップルのための情報収集サイトを立ち上げることにしたそうです。
『生きているだけで十分』この言葉から読み取れるのは、凄まじい体験を経て生き残った人から発せられる『命』への崇敬の念でしょう。
21世紀最大の国難となりつつある現状下では、セクシャリティなどのあらゆる個人的差異を超えた連携と、理解・信頼が強く求められています。
各人が自分の出来ることから被災者への支援を考えなければなりません。
「何かの役に立ちたい! 誰かを助けたい!」こういう時だからこそ、助け合いの使命感が自然に漂う国民性であって欲しいと願うばかりです。

あらためて、この度の東北関東大震災で犠牲になられた方々のご冥福をお祈りすると共に、今なお惨禍の渦中におられる方の一刻も早いご快癒と平穏な生活の再建をお祈り申し上げます。

2011/03/25 12:01 | nakahashi | No Comments