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皆さん、おはようございます。
ここまで力を入れてきたオペラのこととて、
通常のご報告では、礼儀にこそ適うかもしれないけれど、
物書きとしては少々野暮に感じるところもあり、
ショートショートにてご報告とお礼に代えさせていただきましょう。
なお、8月8日夕刻より、
北新地の「サロン・ド・アヴェンヌ」にて
コジの再演が決定致しました。
こちらもまたご案内させていただきますね。
それはフィオルディリージの2幕アリアだった。
楽譜上で25番と言われているロンドである。
目の前の伴奏はピアノであるはずなのだが、
オーケストラの音が私の耳に飛び込んでくる。
ふと瞼の中に、KとMの顔が交錯し始めた。
フィオルディリージは歌う。
一体誰に誠を失ったの?
この軽率で薄情な心は
愛しい恋人、あなたの清らかさには
もっと良い報いがあるべきなのに
それにしてもこの歌手は見事だ。
声が良いとか、歌が上手いとか、
そんな次元はもうどうでも良い。
気迫が違う、オーラが違う。
この歌手を燃やしているものは、
一体何なのだろう?
ただ聴いているだけの私にも、
テキストが、音楽が突き刺さってきて、
右へ、左へ、心を引きずり回すのだ。
歌手は最後のトリルを見事に歌い切り、
手にした3本の白バラを胸に抱いて花瓶に収めて振り向く。
その瞬間、まだ後奏は続いているにも関わらず、
客席から爆発的な拍手と歓声が発せられた。
ああ、みんなこの世界に引き込まれたんだ・・・。
やがてオペラは終わった。
心がどこにあるのかさえわからないまま、
私は帰途に就いた。
ふと見ると、そこにはKの後姿があった。
誰か異性と一緒だ。
その後姿ではなく、雰囲気に覚えがあった。
しかし、時折二人は視界から消えかけることがある。
私の目は極度の疲労を訴えているのだろうか?
何かの拍子に横を向いたKの連れを見て、
私は凍りついてしまった。
それは私自身だったのだ。
彼らは腕を組みつつも歩みを速め、
いつしか吸い込まれるように闇の中へ消えていった。
家に帰りついた時、
私は言いようのない至福感の中にいた。
Kは、いや、Kの分身が、
私の分身と結ばれたのだった。
あれから二晩たった今でも、
その至福感は私の中にある。
嬉し涙ならば、いつでも流してみせよう。