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こんばんは、酒井孝祥です。
酒井が4月に出演するお芝居の演目は、チェーホフの「さくらんぼ畑」です。
「さくらんぼ畑」と聞いてなんのこっちゃ分からなくても、「桜の園」と聞けば、お芝居好きな人なら誰もが知っている名戯曲です。
タイトルに「桜」とついていながらも、劇中の台詞に実際に登場するのは「さくらんぼ」「桜桃」であり、日本人が「桜」としてイメージするものとは異なる…という観点から、これまでの「桜の園」ではなく、「さくらんぼ畑」というタイトルで翻訳された新訳での上演です。
この戯曲では、劇中に舞踏会のシーンがあります。
今回の公演は、和テイストな演出で、舞踏会のシーンを日本舞踊で構成したいので、振り付けも兼ねて参加してくれないかとのことで、出演を依頼されました。
しかし、自分に振り付けなんて出来るはずもなく、日本舞踊的な動き、着物を着たときの所作などにおいて、何も知らない共演者に対して助言くらいなら出来ると伝えて参加を決めました。
ところが、いざ顔合わせが行われてみると、なぜか僕が振り付けをすることになっておりました。
あれれ…?という気分になりながらも、新しいことに挑むチャンスではないかとプラス思考に転じます。
しかしながら、日本舞踊のシーンを作るとは言っても、出演者の中で、僕以外で日本舞踊を経験したことのある人は、辛うじて一人いただけです。
短期間の稽古で形にするためには、きっちり日本舞踊をやるというより、いかに、誰でも出来る様な簡単な動きで、しかしそれらしい雰囲気になるように構成するかがポイントとなります。
そして、日本舞踊をやるというのに衣装が着物ではないという矛盾めいた要素もありました。
当初、着物ではないものの、和装テイストの衣装にするかもしれないという話もありましたが、実際にあがった衣装案は、普通に洋装で、さらに、靴を履いたままの状態でそのシーンをつくるとのこと。
もちろん、日本舞踊には下駄や草履を履いて踊る演目もあります。
しかし、基本的には足袋を履いて踊るものであり、足袋を履くことで可能となっている、足を床に滑らせる動きが多々あるので、それが不可であるとなると、出来ることも限られてきます。
その条件において、いかに日本舞踊的なシーンを創るか…?
最初は、日本舞踊の一般的なイメージとしては、扇子を持って踊ることが定着しているかと思うので、全員が扇子を持って踊ろうとしました。
しかし、師に意見を仰いだところ、不慣れな人が扇子を使うと、握り方一つですら粗が見えてしまうので、避けた方が良いとのことでした。
そして、扇子の代わりに、100円ショップでも手に入り、見た目にも華やかなあるものを使うことを勧められました。
それは、枝のついた造花です。
造花の枝の部分を握って、扇子で裏表を返す様に手首をひねったり、遠くの方を指したりすることを、皆が揃えて行えば、それだけで鮮やかな光景が出来上がります。
師のアイデアを参考に、お稽古場で初心者向けとして教えられている踊りをベースに、扇子を枝に持ち換え、おすべりと呼ばれる足袋がなければ出来ない動きをカットしたりして、場面を構成してみました。
振り付けという名目ではあるものの、結果的には、ほとんど、もともとある振りを指導する様なこととなりました。
これは、言わば、自分にとって初めて人に踊りを教える行為で、本来なら、師範名取にならなければ体験出来ないものです。
今回、日本舞踊を知らない人が、自分の動きを真似、その真似た動きが日本舞踊の様に見えるために修正していくことは、自分にとっても、日本舞踊の初歩的なことを再認識する良い機会となりました。
完成した場面が、本番でお客様の目にどう映るでしょうか…
次回は、「敬うべき歌舞伎の皆さん」(古典芸能)をテーマにしたコラムをお届けします。