« フリーダイビングと武道:その1 | Home | 一年ありがとうございました。 »
さて、私は今年は陸上での運動には全く無縁だったのですが、年末にいくつか武道を学ぶ機会(しかもちょっとマニアックな^^;;)がありました。
インド古武術カラリパヤット:
日本ではあまり聞き慣れませんが、ヨーガと同じルーツを持ち、様々な武術の起源になったとても歴史がある武術です。私はご縁あって今回が二回目のワークショップ参加となりました。様々な動物のポーズが基礎の基礎の基本形になっており、それが繋がって一連の動作になりますが簡単にお伝えすると
「え、それはないでしょ、その次にこれっていうのはむ・・むりむりむり〜〜あ””ーーーーーー!!!」
という感じで・・腰を痛めている方にはお勧めしません。私は想定通り、翌日ありえないほど全身筋肉痛になりました・・。ともかく、相当身体の鍛錬をしないと基本の動きすらままならない、奥が深い武術です。何より身体の軸がしっかりしていることが基本中の基本。勢いで騙すことも出来ません。取得するのは時間がかかるかもしれませんが、時間をかけて得たものは簡単に失われない。難しいというのには意味があるのだと思います。
「まずはバランス。強さはあとからついてきます」
という言葉が印象的でした。そしてさらにその先にはやはり「美しさ」があります。稽古の最初と最後には必ず祈りと感謝をもって神様に捧げる演武が行われます。ニディーシュ先生の演武は全ての動きが曲線的で、とても美しいけれど、底知れぬ強さがあり、不思議と見ていて穏やかな気持ちになります。「柔らかくて、強いこと」これは私が憧れる理想なのだということを、思い出しました。
(※ちなみに、カラリの稽古では、一つ一つの動作の意味といったものは一切説明しないそうです。あくまで私の個人的感想です。)
法螺貝の稽古:
法螺貝とフリーダイビングって何が繋がるんだよ!って思うかもしれませんが、まあ貝というのは海のものなので・・。これは武道というより、修験僧の方が行う”行”だと思うので、とても貴重な経験です。貝好きな私ですがもちろん法螺貝は初めてです。ずしりとした貝を渡され、最初は音を出そうと一生懸命になっていました。ひとりで鳴らしてみるとふっと音が出たのに、修験者である先生が目の前にくるだけで、なんとも弱々しい情けないスカスカした音しか出なくなるのです・・。
そして、途中から貝のことは忘れて、しばし身体をほぐすワーク。
そしてもう一度貝を持つ。
音というのは結果として出るもの。
出る、と言うか、空気の震えで響くものということが少しだけわかってきました。
そのためには呼吸が大切で、深い呼吸はしっかりと大地を踏みしめるこの自分の身体を通して出てくる。そして面白いくらい、呼吸と言うのは気持ちと連動しているんですね。法螺貝稽古の最後の全員での法螺の掛け合いは凄くて、もはや音が聞こえるというより空気が震えてました。出そうと思って無理矢理出す音と、結果として響くものの違い。自分から出ているのか、周りから出ているのかもはやわからない。身体と空気と貝が共鳴していた空間、忘れられません。
(※法螺貝の稽古でも、言葉を使った説明は殆どなかったので、あくまで私の個人的な感想です)
カラリパヤットや法螺貝の稽古はクロストレーニング、というにはちょっと次元が違うのですが、思わぬところでフリーダイビングとの共通項を発見したり、フリーダイビングでは感じなかった沢山のことを気づかせてくれました。
年間通してわりと真剣にやっているはずのフリーダイビングでは何故かこうした気づきを得にくくなっている、ということがあります。私はオリンピックを目指すようなアスリートではありませんが、それでも競技結果にフォーカスしすぎて、気がつくと数字やテクニックばかり追っていた、ということがままあるからだと思います。
もっと深く、もっと長くと数字を追いかけて、数字の先に何かあると思ったら、数字以外何も見つからなくて、なのでまたその先にある数字ばかりを追いかけてしまう、という悪循環。結果を急ぐことによって、沢山の、もっと豊かなことを見落としてしまいます。もしかしたら数字の先ではなくて、その途中に欲しいものは、あるのかもしれません。
クロストレーニングというのは、ある意味でとても良い寄り道になるのでは、と思います。結果ではなくて、理想を目指すとか、何かを手に入れることより、もう持っている何かに気づくとか、そんな簡単なことを教えてくれます。
人間は陸上で、酸素を吸って太陽の光を浴びて生きる生物です。でも細胞のどこかでは海を覚えていてそれでフリーダイビングに魅せられてしまう。でも、とても深いけれど、やはりフリーダイビングは、陸上生物にとってとても魅力的なひとつの「寄り道」に過ぎないのかも・・などとふと、思います。普段気がつかない自分の心や身体や空気、そういったものに気づくことが出来る、人生を豊かにする寄り道、私にとっては、フリーダイビングはそんな風に思えているのです。
フリーダイビングのために武者修行をしているのではなくて、フリーダイビングが何かの修行になっているのかも・・?
などと思う大晦日です。「人魚の武者修行」はまだ2013年のことも書ききれていないのですが、まもなく2013年も終わりなので・・・ここでいったん〆ます。
今年一年の海に、空気に、身体に、そして周りの皆様に、感謝します。
良いお年を!
photo by Mayuko higuchi