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2013/12/14

これは、上演するモーツァルトのオペラ、
コジ・ファン・トゥッテのあらすじをノベライズしたものです。
とはいっても、ぼんち演出版のもの。
今回はその前日譚のショートショートをお送りしましょう。

どうしてこんなことになったのだろう?
以前は僕の恋人だった人が、
近い将来には小姑になってしまうのだ。

僕たちは喧嘩別れしたわけでも、
性格の不一致で別れたわけでもない。
あの頃、僕はまだ売れていなかった。
彼女たちの母親が、僕たちの交際に反対したのだ。
心優しい彼女は、母親に抵抗しきれなかった。

僕は失恋した。

その後、僕は少しずつ売れ始めた。
そして、活動の拠点を今の場所に移した。
そんなある日、良い女性を紹介してやろう、
という飲み友達が現れた。
自分は紹介してくれる女性の姉と付き合っているという。

いざ紹介されて、僕はその女性に見覚えがあることに気付いた。
だが、それが誰だかわかったのは、
とりあえず付き合い始めて少したってからのことだった。

飲み友達と、姉妹が揃ってカップルデートしよう、
ということになったのだが、
そこに現れた姉、という人物を見て、
いや、その人物だって仰天したに違いない。
母親に反対され、僕と別れることにした元恋人、
まさにその人だったのだから。

妹に見覚えがあった理由を思い出した。
元恋人が、一度妹の写真を見せてくれたからだ。

その日が地獄の始まりだった。
姉が絵画を、妹が音楽を、学ぶためということで
実家を出てこの場所に移り住んでいるのだという。
親がいるわけでもないから、
僕も飲み友達もその家に出入りするのだが、
そこには必ず姉、つまり元恋人がいる。

自然な振る舞いというものが、
この時ほど困難に感じられることはなかった。
私の目は、姉を見つめることを欲している。
姉の瞳の光を、僕は感じたいのだ。
もっと光を!
僕が欲しいのは、豪華なシャンデリアの光でも、
慎ましやかな燭台の光でもない。
彼女の目から溢れる、光なのだ。
最高の微笑みを僕に・・・。
そう、愛しているのだ、まだ。

僕は、妹に没頭しようと努めた。
それは、かなり成功していると信じている。
後戻りが出来ないように、
過去のことを、僕は妹の方にも、
そして飲み友達にも話した。

だが、時々あるのだが、
家を訪ねると、姉の方の部屋から、
彼女と飲み友達の行為の声が聞こえてくることがある。
複雑、という以上にたまらない気分だ。
実は、僕は彼女と行為に及んだことがない。
ないままに別れてしまった。
そんな自分の耳に、飛び込んでくる声なのだ。

ならば自分は妹の方を、と思うのだが、
彼女をどうにもすることが出来ないでいる。
彼女の方は僕を誘ってくるのだ。
しかし、なぜかはぐらかしてしまう。
なぜか・・・?いや、嘘はよくない。
なぜか、などではない。
とてつもない不快感に襲われるのだ。

僕と飲み友達には、共通の友人がいる。
いや・・・いつから友人なのか、よくわからない。
気が付けばいた、というのが適切かもしれない。
飲んではネガティブな見解を言う。
過去の傷が深い人物の特徴だ。
人の心というものは・・・などと、
個体差を顧みず、一般論的に語ろうとする。
その読みは当たっているのだが、
なぜか共感できない。
そんな人物だが、人当たりは良くて、
いつの間にか姉妹の家にも出入りするようになっていた。

そんなある日、飲み友達は僕に、
自分が如何に女性を引き付けておける男か、
ということを自慢してきた。
それも、ベッド自慢だ。
思わず僕も言い返した。
それが、環境を一変させるきっかけとなるとも知らずに。
その日が、僕を変えてしまったのだ。

2013/12/14 01:53 | bonchi | No Comments