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こんばんは、酒井孝祥です。
最近、急激に寒くなってきました。
寒くなってくると、夜中に拍子木をチョンチョンと叩きながら、「火の用心」と声を張り上げるのを耳にすることがあると思います。
囲炉裏も火鉢もなく、エアコンやファンヒーターで暖を取り、オール電化の住戸ともなれば、煙草とバースデーケーキくらいしか部屋で火器を使う機会のない昨今において、火の用心とはいいながらも、
「一体何をどう用心したらよいのか…?」
という疑問も残りますが、江戸から続く風物を、博物館などに行ったわけでもないのに、現代でも体感出来るのは、なかなか貴重なことではないでしょうか?
現代でも風習が残っているおかげで、浄瑠璃などで、
「火の用心~さっしゃりましょう~」
という文句が聞こえてきたら、その場面は夜遅い時間なのだとすぐにイメージが沸きます。
さて、今回の話題は、火の用心のことではなく、そのときに叩かれる木のことです。
この拍子木の音は、歌舞伎や文楽が上演される劇場や寄席、日本舞踊や邦楽演奏の会などで、よく耳にします。
相撲の興行などでも耳にしますね。
古典ではあっても、能や狂言などが行われる能舞台では、基本的には耳にしません。
この拍子木を、楽器のカテゴリーの中に含めるとすれば、2本の木を打ち合わせるだけで、特別音階などもなく、非常にシンプルなものです。
しかし、簡単そうに思って実際に打ってみると、なかなか良い音が出ないもので、上手くいかなかったときの乾いたような音は、なかなか虚しいものです。
気持ち良く響く音を出すには、それなりの技術が必要です。
歌舞伎などの公演で劇場を訪れて、1つの演目の上演時間が近くなると、一定間隔を置いて、拍子木の音が、チョンと1回づつ鳴らされます。
これを「回し」などと呼びますが、この木の音が聞こえてきたら、上演開始が近付いているということです。
そろそろ座席に戻らなければならないという合図です。
そして、いよいよ幕が開き出すと、それに合わせて、チョン、チョン、チョンチョンチョンチョン…と木の音が細かく刻まれていきます。
木の音の刻みが速くなっていくのに合わせるかのように、お客は徐々にその舞台に引き込まれていきます。
幕の開ききりと同時に、締めでチョンと一本鳴ったら、そこはもう、先ほどまでのざわざわした客席とは別次元の空間に変わっております。
拍子木の音は、単に上演開始をアナウンスするツールにとどまらず、お客を現実世界からお芝居の中へと引き込んでいく調べともなります。
そして、劇中でも、拍子木に近い形状の2本の木が、演出効果として使用されることがあります。
ツケと呼ばれるのですが、2本の木を、舞台面に置いた木の板に打ち付けます。
バタバタと音を鳴らして役者が走る様子を表現したり、見得でポーズを決めるときにアクセントになるような音を鳴らします。
拍子木を打つ人は、お客から見えない舞台袖などで打ちますが、ツケを打つ人は、敢えてなのか、お客からはっきり見える、舞台の上手(客席から見て右側)の手前で打ちます。
ツケを打つには、役者の芝居の呼吸が分かっていないと無理で、役者の様子をじっと見ながらツケを打つ姿は、まさに職人の姿です。
作品によっては、舞台の一番のクライマックスのシーンで、役者がポーズを決めた瞬間に、チョンと一本、拍子木が鳴らされ、その瞬間が際立てられることがあります。
そして、幕が閉まるときには、最初と同じ様にチョンチョン…と刻まれていき、幕が閉まりきると同時に鳴らされるチョンで、お客は再び現実世界に戻って来るのです。
この木の音には、お客の心を動かす魔力があるかのようです。
次回は、「結婚式場の選び方」(ブライダル)をテーマにしたコラムをお届けします。