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こんばんは、酒井孝祥です。
いきなり余談から始まりますが、酒井がこのジャンクステージの連載コラムの中で、一番楽しみにしているのは、笠原さんの「風嬢だって人である。」です。
笠原さんのコラムが更新されたら必ず読みます。
そして、内容に共感出来たり、目からウロコのような気持ちになることが一番多いのは、北沢さんの「声の力」です。
酒井はもともと、古典芸能や演劇などとは縁がなく、ひたすら声優に憧れていました。
だから声優として仕事をされている北沢さんは羨ましい存在でもあり、北沢さんのコラムを読んでいると、自分も同じことを考えたと思ったり、自分も知っているつもりであったことが、そういう解釈も出来るのかと驚かされることがあります。
今回のテーマは、そんな声優さんと、古典芸能との意外な(…と言う程でもないかもしれませんが)関係です。
本当なら、声優さんの実名を挙げて語りたいところなのですが、そうすると色々問題が出てくるかと思いますので、イニシャルを使わせていただきます。
さて、Wさんというベテランの声優さんがいます。
この声優さんは、台詞の節回しにとても特徴のある方で、言葉の語尾の伸ばし方などが独特です。
ある作品で、Wさんの声が機械を通して音声変換されたことがありますが、たとえ音声が変えられたとしても、それを喋っているのがWさんだと分かるほどに特徴的です。
同じ節回しを用いながらも、全く違う役を演じわけてしまうことは感動的ですらあります。
Wさんのこと自体はずっと昔から知っていましたが、自分が古典芸能に触れるようになってから、Wさんの台詞が歌舞伎の台詞の様に思えるようになりました。
古典的な歌舞伎の台詞そのものとは異なるため、古典でないお芝居の中に違和感なく溶け込んでいますが、語尾の伸ばし方、間の詰め方、息遣い、強弱のつけ方に、歌舞伎の台詞回しと同じ様な印象を受けるのです。
気になってWさんのことをネットで調べてみたところ、案の定、歌舞伎や能などの古典芸能を参考にしていたとのことで、一番ベースになっているのは浪曲の様でした。
それを知って、なるほど確かに浪曲だと思いました。
Wさんを一例としてまず挙げさせていただきましたが、酒井が気が付いた声優と古典芸能との関係というのは、“ベテランの声優さんに、日本の古典芸能に学ばれている方が多い”ということです。
酒井は昔、劇団のレッスンで狂言を習っていて、素人で狂言を習う人達の発表会に2度ほど参加させていただいたことがあります。
その後、かつて自分が出ていたその狂言発表会をお客として見に行ったことがあるのですが、そのプラグラムを見て驚きました。
素人の出演者の中に、ベテラン声優のCさんの名前が入っていたのです。
そう言えば、大御所声優のKさんも、同じ流派の狂言を習っていたと聞いたような…
他にも、渋い声が印象的なGさんは若い頃から謡曲を続けられていたり、女性声優のSさんやAさんの様に、講談師としても活躍する声優さんもいます。
テレビの顔出しでも大活躍しているYさんは、大学の落語研究会出身です。
考えてみれば、落語や浪曲、講談などは、一人の演者が声だけで何役も演じ分けて一つの作品を作っているのですから、声の表現力としてかなり高度なものが必要です。
人形浄瑠璃の浄瑠璃などは、人形の動きに合わせて言葉を喋るのですから、アテレコに近いものがあります。
古典芸能においては、日本語の語感による声の表現方法が長い年月をかけて研鑽されてきたのですから、それに学ぶことは、声優の演技にもきっと有効なのだと思います。
次回は、「木」(古典芸能)をテーマにしたコラムをお届けします。