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ずっと、好きな人がいた。
背中越しに彼の笑い声を聴き、決して合わない視線を追いかけ、触れることが出来ない肌の代わりに影を踏んで歩いた。それでも幸せだった。同じ時間に彼がいて、同じ空気を吸っていて、笑っている。それだけのことで私は十分満たされていた。
告白はもうとっくの昔にしていた。決死の思いの告白に、彼は何にもいわず、ただ困ったような顔で俯いた。だから私は賭けに出た。
「付き合ってくれとか言いません。ただ好きでいていいですか?」
彼は頷いた。私は賭けに勝ち、また同じように幸福な日常を手に入れた。
好きだ好きだと言い募り、偶に彼が私の方を見るだけで天にも昇る気持ちになった。
彼はいつも奇麗な恋人と一緒だった。恋人は彼と同じ、明るい世界にいる人のように見えた。明るくて、元気で、頭が良くて。欠点があってもそれさえ愛すべき要素になるような、そんな人を彼は恋人にしていた。だから私は嫉妬すらしなかった。完璧な彼には完璧な相手がいてしかるべきだと思ったし、自分はそうではないという自覚もあったからだ。とはいえやはり寂しかった。悲しかった。叶わない恋を嘆いたりもした。でも好きだから、私はずっと彼の後ろをついて歩いた。
彼を想う間、私は自分のことで手いっぱいだった。
彼には彼の感情があるということを、それをただ言わなかっただけなのだということを、馬鹿な私は知らなかった。
私はもうじき結婚する。彼への招待状の宛名は特別丁寧に書いた。来ても来なくてもいいと思った。もう私はあなたを想い続けないのだということを、あなたは押しつけられる思いから開放されるのだということを、伝えられたらそれでよかった。夫になる人に、会社の先輩だと嘘をついた。必要のない嘘がすこし辛かった。
彼はこれで、少しは楽になるだろうか。
ずっと、誰かを想う気持ちというのはキレイなものだと思っていた。貴い気持ちなのだと思っていた。だからそれを押しつけられる重さを、私はこの頃初めて知った。
だからその重さを受け止める辛さも、今まで考えることもなかったのだ。
ごめんなさい。
彼にはいえないお詫びの言葉を閉じ込めた純白の封筒を、私はそっと撫でてみる。最後までこんなものを送りつけて、と彼はまた困ったような顔をするだろうか。そうかもしれない。これで最後だから、許してほしいと思うのは虫のいい話なのかもしれない。
でも、私は私のけじめとして。
彼を好きだった自分を、白い封筒に閉じ込める。
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花言葉:狂おしい愛情
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。