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おはようございます、酒井孝祥です。
実は、今昔舞踊劇において、もしかしたら本番よりも気合を入れて(?)酒井が挑んでいるものがあります。
それは、上演前のアナウンスです。
お芝居を見に行くと、ほとんど全ての場合において、上演前に携帯電話の電源を切るようにだとか、上演時間はどのくらいで途中休憩があるかないか等のアナウンスが行なわれます。
小劇場だと、場内の受付スタッフの一人が前に出てきてそのアナウンスを行うことが多いです。
大きめの劇場だと、録音されたものが流れたり、生であっても、喋り手本人は姿を現さずに、マイクからスピーカーを通して流れることが多いかと思います。
実は、僕がお客として芝居を観にいったとき、その場内アナウンスのクオリティで、その芝居の良し悪しが分かってしまうことがあります。
アナウンスの声が小さかったり、素人みたいな棒読みだったり、内容が的を得ていなかったり、日本語の扱い方が間違っているなどと感じたときは、公演の内容自体が面白くなかったことが多いです。
たかだか注意事項を説明するだけの前説ではありますが、それはお客様がその公演において初めて耳にするセリフです。
そのセリフがお客様を引き込むことが出来るかどうかは、お客様が作品そのものに入り込めるか否かの重要なポイントになり得ると思うのです。
前説がしっかりしていること=その集団がお客様を大事にする意識をもっていることに繋がりますから、やはりその意識のある集団がつくる芝居は自然にクオリティが高まると思うのです。
今回酒井は、昨年に引き続いて、その前説を行なうことになりました。
実は今昔舞踊劇では、お客様が場内に案内されている段階からお芝居の世界に引き込むために、スーツを着た案内スタッフの他に、出演する役者が、劇中に舞台上に登場する黒子の姿(顔は出します)にてお客様の誘導を行ないます。
決してスタッフの人手が足りないわけではなく、演出的な意図で、黒子が場内整理を行います。
そして、酒井も黒子の姿で舞台上に現れて前説を行ないます。
当初は、一番最初の演目で酒井が紋付袴をつけた後見で登場する予定だったため、前説も紋付袴で、自分の流派の紋を背負って行なう予定だったのですが、直前になって、最初の演目は黒子で出るということになり、前説も黒子で行なうことになりました。
開演15分前になり、「着到(ちゃくとう)」と呼ばれる歌舞伎などの上演前に演奏されるBGMが流れ、その曲が鳴り止むと、黒子の格好で顔も隠した酒井が舞台に登場し、照明も当たります。
酒井が舞台中央までたどり着き、お客様が「何が始まるのだろう…?」と思ったところで、顔を隠している頭巾の布を上げて素顔を出し、前説のアナウンスを始めます。
そのときの表情はにこやかであることを心がけます。
表情が見えない黒子の素顔がパッと見えた瞬間、とびっきりの笑顔が眼に飛び込んでくれば、お客様も親近感を持つに違いありません。(逆にひいてしまうお客様がいたらごめんなさい…)
前説のアナウンスは、携帯電話・飲食喫煙・上演中の撮影と録音の禁止、上演時間、トイレや喫煙所の場所、アンケートへの協力依頼など、必要な情報をお客様にお伝えすることが、実質的な目的として行なわれます。
その情報伝達において、僕がもっとも気をつけるのは、自分がお客の立場で初めてそのアナウンスを聞いたときにも理解出来ることを想定して、分かり易く、明朗に説明することです。
そのためには、説明がダラダラしないように出来るだけ短いフレーズで説明出来る言葉を用い、ゆっくりと、お客様を包み込むような意識をもって喋ります。
そして開演5分前で再び登場して同じ説明を行なうのですが、既に一度聞いている人にくどい印象を与えないため、2回目のアナウンスのときにはさらにフレーズを短くし、必要最低限な情報を伝えることを心がけます。
たとえば1回目に「本公演の上演時間は、およそ2時間を予定しております。途中、15分間の休憩がございます。」と言ったとすれば、2回目の同じ部分では「上演時間は、15分の休憩を含め2時間の予定でございます。」などと、意味的には変わらなくても、言い回しを一部省略したり、2つのセンテンスを1つに繋げたりします。
また、本公演においてのこだわり要素の一つとして、和物の作品を上演するので、作品の雰囲気に合わせて、前説においても外来語を使わないことにも気をつかいました。
「スタッフ→係の者」「ビデオ撮影→動画撮影」「PHSやアラーム付き腕時計→“電子機器”と総称」といった具合です。
それでも“アンケート用紙”への協力要請については、“アンケート”という言葉を使った方がお客様も瞬時に理解出来ると思うので、敢えて使いました。
「お手元に感想を書き込む用紙がございますので、是非ご協力下さい。」と言ってもいまいちパッとしません。
5分前アナウンスも終了した後は、開演直前になって再々登場し、酒井の「大変長らくお待たせいたしました。只今より開演でございます。最後までごゆるりとお楽しみ下さいませ。」の言葉をきっかけに暗転し、公演がスタートします。
この「ごゆるりとお楽しみ下さいませ。」という言葉は、お客様を現実世界から切り離して今昔舞踊劇の世界に誘うためのキーワードです。
もしもこの言葉を噛んでしまったら、作品全体を崩しかねず、この言葉でお客様を引き込むことが出来れば、公演自体が成功するという気概を持って挑みました。
この前説部分は、公演がDVD化されるときは、本編とは別扱いでカットされます。
だからこそ、本番当日に舞台に足を運んだ人んしか味わうことの出来ないものにもなります。
終演後に、前説が良かったなどと言われると、“してやったり”と思えます。