« スポーツは文化!2013年 | Home | 「あざみの歌」と私 »
切る屑を巻き上げながら、
丸太を滑るように進むチェーンソーを握りしめる手に暖かな日射し、
先程までの激しい嵐が嘘のようです、
森の中では雨が再び靄になって落ちて来た空の雲の中に戻って行きます、
草を濡らした雨粒は、
草をクリスタルガラスで縁取っています、
チェーンソーのエンジンを止めてその場を離れてみると、
私のいた場所だけが、
日の当たる場所になっています、
窓の外は別世界、
木々は風に煽られて大きく揺れ、
木々の葉は身を隠す術を知らず風に戸惑っています、
時折、木の枝が風に負けて折れる音が聞こえてきます、
窓の外の森は雨と風の白いレースのカーテンで濁っています、
私は嵐の過ぎるのを心地良いソファーに身を沈め、
窓の外の別世界をぼんやりと眺めています、
遠くで古木が風に煽られて地面に倒れたのでしょうか、
木の裂ける音と古木が地面に倒れる音が地面を伝わってきます、
裏の小川は激しい雨にかき消され、
いつもの小川を流れる水の音さえ聞こえません、
嵐が通り過ぎたのでしょうか、
急に雨が小雨になり、
森が再び静かな森に変わってきました、
テラスドアを開けてベランダに出てみると、
屋根があるはずなのに、
風で雨と木の葉が飛ばされたのでしょうか、
濡れた木の葉でベランダは足の踏み場がありません、
私をかすめる春先のような暖かな風が吹き抜けていきます、
嵐の去った森に出てみると、
いたるところに風に耐えられなくなった葉が、
枝を付けたまま森の中に散乱しています、
地面には1〜2mの枝が所々に刺さっています、
強風で折れた枝が地面に刺さっているようです、
中には枝を付けた3mの太い枝も地面に刺さっています、
嵐のときは絶対に森の中は歩かないようにと聞かされていましたが、
森の中を歩いていて、
こんな枝が空から真っ逆さまに落ちて来たらと思うとぞっとします、
栗の木の下を通りかかると、
青々とした栗のイガの中にまだベージュ色した栗の実を付けたまま、
秋の実りの季節を前にイガ栗が地面を覆いつくしています、
裏の小川に行ってみると、
いつもは透き通るような山の水が流れているはずなのに、
今日は茶色く激しい流れに変わっています、
先程の地鳴りを引き起こした倒れた20mの古木が、
根元から折れて倒木となって小川に横たわっています、
風の過ぎ去った森の中にただ立っていると、
穏やかなで私に都合の良い、
この森を見過ぎたのかもしれません、
いつも自然の恵みをただ利用しようとしていたのかもしれません、
今日は私に都合の悪い自然が、
私の前に現れたようです、
まだ小雨降る森の中にブルーシートを張り、
時折風に煽られながら作業場を作ります、
森の中のベランダは、
床板を貼り終え手すりを取り付け終わり、
今日はガラスの屋根用の梁の加工作業まで進んできました、
裏山から細めの杉丸太を切り出し、
皮をむき十分乾かした杉丸太、
墨つぼで線を引き、
チェーンソーで寸法どうりに加工、
そしてディスクサンダーで表面を整えて仕上げます、
作業に飽きると、
庭に椅子を持ち出し一休み、
気持ちの整理が終わると、
再びチェーンソーのエンジンを回し始めます、
なんの情報も入って来ないこの森の中で、
一日を使う為には、
ひたす手を動かし続けて一日を使い切るしかありません、
雨が止み薄日が射してきました、
私のいる場所が急に明るくなってきました、
やっと一本の杉丸太の加工を終えると、
足元の草影から秋の虫の声が聞こえてきます、
こんな嵐の過ぎ去った森の中で、
虫たちが昨日と同じように鳴いています、
チェーンソーを持ったまま顔を上げると、
雨の上がったベランダから、
ママが微笑みながら私にカメラを向けています、
嵐の去った森は、
いつもの優しい森に変わり、
作業をしている私に、
日射しが降りて来て、
雨で濡れた私を暖めてくれています。