« | Home | »

2013/08/31

まずはじめに言ってしまうと、これまで経験したことのないような痛みを胸に感じたら、病院を受診されることをお勧めします。胸部の痛みは命に関わる病気の症状であることがあるためです。
痛みに耐えられないようなら、救急車を呼んでも構いません。結果的に、以下に紹介する病気のなかで、比較的軽症に分類される病気であったとしても、重症の病気を放置して死に至るよりはいいと僕は考えます。

胸が痛いと感じたとき、医療現場でチェックされるのが、胸のどのあたりがいたいのか、ということ。実際には痛みの範囲はゆるやかに分布するものなので、厳密ではありませんが、それが胸の痛み(胸痛)なのか、胸よりも少し下部の、みぞおちの痛み(心窩部痛)なのかくらいは、区別できるとよいと思います。胸痛と言われたときと、心窩部痛と言われたときで、医療者が思い浮かべる病気がやや変わってしまうからです。具体的には、胸痛と言われたときに考慮する病気のほうがより重症になります。

患者が胸痛を訴えたときに、年齢や状況にもよりますが、まず想起するのは心筋梗塞や狭心症、急性心膜炎や大動脈解離など、心血管系の病気です。あるいは自然気胸や肺塞栓症、肺梗塞など、呼吸器系の病気になります。
どうしてかといえば、これらの病気は、もし見逃せば患者が死ぬからです。一方で、肋間神経痛や帯状疱疹、食道炎など、命には関わらない病気で患者が胸痛を訴えることもあります。

心窩部痛であれば、胸痛よりもやや緊迫感が薄れます。胃十二指腸潰瘍や胆石発作などの病気が鑑別に挙がり、これらは適切な処置をすればよくなるからです。とはいえ、急性膵炎や消化管穿孔など、重症度や時間の経過により致死的となる病気も考えられ、さらには胸痛との区別が難しい場合もあるでしょう。
いずれにせよ、これらの判断は専門家にしかできません。そのことを忘れないようにしてください。

夜中に胸の痛みを感じて病院に行ったが、たとえば帯状疱疹だったとしましょう。 当直中に叩き起こされた医師は不機嫌かも知れませんが、それは結果論です。急性心筋梗塞を我慢しようとしてしまったら、待つのは悲しい結末だけということになりかねません。
救える命は救われなければならない。それは医療に携わるもの全員が一致した想いであるはずです。専門家にしかわからないことは、専門家に任せるしかないのですから。

もちろん、心因性の胸痛(ほぼ気のせい)で何回も受診されれば医療者も困惑します。“これまでに経験したことのない痛み”というのが各自の判断に任されるのが難しいところですが、ヒントはあります。
1つ目は、意識があるかどうか。当然ですが、誰かが胸の痛みを訴え、意識を失うかグッタリとしてしまったら、迷わず救急車を呼びましょう。2つ目は、急な息切れや呼吸困難があるかどうか。これは心臓や血管、肺の病気をそのまま意味します。
痛みの性状も重要です。胸が締めつけられるような痛みや、痛みの場所が移動するようであれば、これは重症の病気のサインと考えられます。冷や汗や悪寒、吐き気など、併発する症状があるかどうかも気にしてみてください。
119番に電話をかけるときは、このような自分の症状を可能な限り 伝えるようにしましょう。

繰り返しますが、胸の痛みは大きな病気の症状でありえます。基本的にはすみやかに病院に受診するものという意識でいてください。その際、どのように胸が痛いのかを説明することは、よりよい診療につながります。
そんなとき、この記事がみなさまのお役に立てば幸いです。

 

2013/08/31 06:00 | kuchiki | No Comments