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2011/02/25

丸さん(仮名・68歳)は、芸能関係の事務所や飲食店を経営する『ヤリ手』の社長さんです。

丸さんは、30代で大手広告代理店を脱サラして起業し、最初は小さなゲイバーをマスターとして切り盛りしていましたが、お店をショーパブ化することで事業に成功し、複数の店舗を持つようになったほか、芸能関係の事務所の経営など、多角的な経営を成功させてきました。
そんな丸さんは、気が付けばもう60歳代後半の年齢。まだまだ現役といきたいところですが、趣味の海外旅行が億劫になるほど、体力が低下してしまいました。

丸さんが自分の体の異変に気がついて病院へ行った時には、既に病は生命の危険領域まで進行していました。
丸さんは、腎臓の移植を受けなければならない体となり、現在は人工透析を受けています。
「自分勝手に生きてきたからなぁ」と丸さん。後悔はしていないそうですが、心配事は尽きません。

「会社やお店をどうしよう…」

丸さんの不安は、自分のこれからの体のことではなくて、軌道に乗せた自分の事業のことでした。
ゲイである丸さんは独身。子供はいません。残念なことに、ここ数年は、恋人もいないとのこと。
親族は、弟と妹がおり、それぞれ家庭をもっているとのことでした。
法律的には、このまま丸さんが亡くなった場合には、親族である丸さんの弟と妹さんが、丸さんの財産を相続することになります。
しかし、丸さんは、もう何十年も、弟や妹と音信不通だというのです。

「自分が死んだら、弟や妹に、兄として、少しばかりの財産は分けてあげたい。だけど、会社の経営まで引き継がせる気は無く(向こうもその気はないだろうが…と丸さん談)、どうしたらいいのかわからない」

推定相続人(現段階で法律上相続する権利があると推測される人)が兄弟姉妹しかいない場合には、遺言書を作成することで、任意の人に全ての財産を相続させることが可能です。
ただ、丸さんには、現段階で相続させたい(遺贈したい)恋人・パートナーは居ません。
それに、今すぐに会社やお店をたたんでしまうと、従業員や取引先、お客様に迷惑がかかるので、それもできないというのです。

こうなるともう、一つしか方法がありません。それは、誰かに経営権を買ってもらうということです。

そこで、我々は、丸さんの事業の買い受け先を探しました。
事業を手広くやっていた丸さんの全ての経営権を買い取ることのできる企業や個人は、なかなか見つかりません。
そこで、分割できるように事業体系を見直し、バラバラに買い取ってもらえるようにすると、各方面から声がかかりました。
少し時間はかかりましたが、丸さんは自分の事業を、満足のいく価格で売却することができました。

丸さんは、そのお金で、今は大好きな海外で療養生活を送っています。
おそらく、その国で最期を迎えることになるでしょう。それが、丸さんの望みでもあります。

どんなに発展家の人でも、いずれは手広く広げた物を、たたむか手放すかをしなければなりません。
死後の世界にまでそれを持っていくことは不可能だからです。
命に終わりがある限り、命で保ってきたあらゆる物事は終了します。
丸さんは、自分自身で最後の身辺整理を終わらせました。しかし、中には手付かずで亡くなる人も居ます。
丸さんのような事業家が、事業の承継を考えずに、放ったらかしにして亡くなったらどうなるでしょう?
困るのは、親族・従業員・取引先・お客様でしょう。

大きく広げた自分のフィールドを、きれいにたたみ、中のものをきちんと整理・処分することまで出来て、事業家の一生は本当に終わりを迎えることができるのです。

2011/02/25 12:01 | nakahashi | No Comments