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右手も薬指の先端が紫色に染まっていく、
石を積み始めてどのくらい経っただろうか、
石垣はちょうど膝の高さまで積み上がっていた、
昔、フランスの海岸地帯で見た石垣の長さには及ばないが、
それなりに満足出来る長さの石垣が積み上がってきた、
石を一つ積む度に次の石を目で探す、
どれでも良いという分けではない、
出来れば隙き間なく組み上げる為に、
次に積む石の断面を気にしながら、
石を目で探す、
『次は、私の番よ!!』と、
囁く石を見つけその石を積み上げる、
私に囁く石とは違う石を手に取り、
積み上げようとすると、
なぜか石を置くタイミングを外し、
指の先が紫色に染まりる、
単調な作業のはずなのに、
私はこの石積みの作業が楽しくてならない、
石の囁く声を感じるのが楽しくてならない、
小雨が降り始めてきた、
Tシャツが肌にまとわりつく、
私は石を積み上げる、
私は楽しくてならない、
もう右手の薬指の痛みすら覚えていない、
私は小雨の中、
楽しくてならない、
彼女が耳元で囁く声に目を覚ます、
シーツの下にあるベッドの暖かさを、
右の頬に感じながら夢の中で目を覚ます、
どれくらい前から彼女は、
シーツを左の頬で暖めていたんだろう、
彼女が囁くたびに、
彼女の左の頬のシーツのしわで出来た赤い線が見える、
まるでナイフで斬りつけられたように、
彼女の奇麗な頬に赤い線が刻み付けられている、
『あなたは、上着を重ね着するように恋する事が出来ると言うけれど、
私は上着を脱ぎ捨てるようにしか恋が出来ないの、
どんなに着心地が良い上着を着ていても、
それはいつの日か脱ぐ日が来る事を知っているの、
あなたは目で見える世界を生きようとしてるけど、
私は感じる世界を生きていたいの、
だから、どんな時だって幸せでいられるの、
それが自分にとって幸せな事だと思えれば、
私は幸せになれるの、
今、眠っているあなたに話しかけているこの時でさえ、
私は幸せで満たされているのよ、
ただ、あなたが目に見える世界しか、
信じようとしない事が、
私は哀しいの』
いつのまにか小雨は止み、
石組みは腰の高さまで積み上がっていた、
青い空と、
森の緑と、
積み上げられたばかりの石組み、
私が残った石の上に腰掛けていると、
ママが石垣の前にテーブルと椅子を並べ、
花を飾り、
アイスティーと、
クッキーを置き、
私の方をちらっと見た気がした、
私が瞬きをすると、
ママの左の頬には、
私をずっと見ていたかのように、
私にだけしか見えない、
シーツのしわで刻み付けられたような、
赤い線が浮かび上がってきた。