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こんばんは、酒井孝祥です。
舞台は、物理的には、木で出来たただの板です。
しかし、そこに演者が立ち、照明があたり、音楽が流れれば、どんな空間にもなることが出来ます。
舞台空間を利用して、演者とお客さんは、宇宙にだって飛んでいけます。
そこは、無限の想像世界への入り口なのです。
一般的に「舞台」「Stage」と聞くと、どの様なビジョンを思い浮かべられますでしょうか?
多くの人は、客席が沢山並んだ前方向に、段差があって客席の床より高い空間が、横長でワイドが広くなっており、幕が開閉出来るようになっているもの、いわば学校の体育館にあるステージの様なビジョンを思い浮かべるのではないかとおもいます。
しかし、舞台空間の形状には、それ以外にも沢山の種類があります。
小劇場等だと、平台や客席の位置が動かせるようになっていて、同じ劇場であったとしても、仕込みの仕方次第で、ときにはコロシアムの様な円形の舞台になったり、真ん中に花道の様に作られた舞台の両側に客席があったりすることもあれば、リノリウム等で仕切られているだけで、客席と舞台に段差がないこと等もあります。
開閉出来る幕がない舞台も珍しくありません。
そして、日本独自の舞台として、能舞台(能楽堂)と呼ばれる舞台があります。
版権上、このコラムで能舞台の実物の画像を載せることは出来ませんが、ネット検索すれば沢山出てきますので、もし、能舞台と聞いてイメージが湧かない人がいたら、検索してみるとよいかと思います。
能・狂言を演じるための舞台ではありますが、それ以外を演じてはいけないというルールがあるわけではない様で、稀に別ジャンルの公演が行われることもあります(ただし、どんな衣装であろうと、舞台に上がる人は足袋をはくことが必須条件となります)。
何の前知識もないままに、外国の方などが能舞台の現物を見たとしたら、きっとそれが、パフォーマンスを行うための空間だとは想像出来ないと思います。
何か宗教的な儀式を行うための空間か、下手すれば、人が住む家屋の一部と思うかも知れません。
何しろ舞台には屋根がついており、背の低い欄干(手摺)もあります。
屋根があるのは、能や狂言がもともと屋外で上演されていたことの名残のようです。
そして、能舞台の基本的なアクティングスペースは正方形をしております。
その正方形の舞台から、歌舞伎で言えば花道にあたる(順番的には歌舞伎舞台の方が能舞台を参考にしたと思われますが…)、橋掛かりと呼ばれる細長い道の様な空間がのびており、演者はそこを通って、正方形の本舞台まで達します。
正方形の舞台というのは、西洋ではほとんど見られないとおもいますが、正方形である能舞台は、舞台を脇方向から観ても楽しむことが出来、そのための座席も設けられています。
もし長方形の舞台を脇から見たとすると、演者の移動が小さく感じられ、複数の演者の姿が重なって見にくいものでしょう。
演者が、まさに縦横無尽に動き回ることが出来るのも、正方形ならではと思います。
そして、能舞台は、演じる作品によって、舞台美術が変わることはありません。
どんな作品であっても、背景には松の木が描かれています。
そして照明的な演出も一切なく、客席も含めて常に同じ明るさで上演されます。
幕も、演者が登場するところに揚げ幕があるだけで、舞台空間を客席からシャットアウトして空間を切り替えるための幕はありません。
つまりは、その板の上の空間を別の空間に変えるのは、ほぼ演者の力によるものです。
正方形の四辺に沿って、摺り足で移動すれば、ある場所から別の場所に移動していることを表し、その移動を止めれば、目的地に到着して、場所が別の処に切り替わったことになります。
舞台の前の際の近くまで移動してきて、正面の客席に向かって言葉を発すれば、それは、物語の中では聞こえている言葉ではなく、その人物の心の声を独白しているということになります。
一見シンプルでありながらも、演者の力一つで宇宙にもなり得るのが、能舞台の魅力かもしれません。
次回からしばらくの間、ある一つのことに関しての、連載的な内容のコラムをお届けしようかと思っております。
乞うご期待!