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82.ブータンの「ネット選挙」(1)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=446
83.ブータンの「ネット選挙」(2)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=451
84.ブータンの「ネット選挙」(3)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=454
85.ブータンの「ネット選挙」(4)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=461
86.速報:ブータン総選挙投票日ドキュメンタリー
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=475
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先週は、ブータンの総選挙の開票速報を見ながら原稿を書いていたが、
今週は、日本の参議院議員選挙の開票速報を横目に原稿を書いている。
大方の予想通り、自民党が圧勝し、自公連立政権が参院でも過半数を取った。
「ネット選挙」解禁が叫ばれた今回の選挙戦において、
果たして、インターネットやソーシャルメディアがどのような役割を担ったのか。
その影響力のほどは、これからの詳細な分析を待たねばならないだろう。
ただ、一つ示唆的な事例を挙げておきたい。
twitter上で最も多く呟かれた、政策キーワードは「原発」だったという。
しかもその多くは、「反原発」「脱原発」に関わるワードだった。
にも関わらず、「原発」の再稼働を決めた現自民党政権が多数票を獲得した。
このことは、いったい何を意味していると考えるべきだろうか…
参考:毎日jp┃2013参院選 ツイッターユーザーがつぶやいた政策キーワード
http://senkyo.mainichi.jp/2013san/analyze/20130704.html
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●選挙結果と「政権交代」の意味
さて。
既に日本国内でも報道があったのをご覧になった方もいるだろうか。
ブータンの総選挙は、日本よりも一週間早く、13日に投開票が行われ、
前野党のPDP(国民民主党)が勝利をおさめ、「政権交代」が果たされた。
前回、2008年時には、47議席中、たった2議席しか獲得できず大敗したPDPは、
今回、32議席へと大躍進し、実に全議席の3分の2を確保するに至った。
各小選挙区別の勝利政党は下図のようになった。
出典:Kuensel Online. http://www.kuenselonline.com/naresults/general.php
PDPの勝因、あるいは、前与党のDPT(ブータン調和党)の敗因は、
現地報道でもさまざまに語られているが、簡単にまとめると以下のようになる。
・2008年来、DPTは十分に公約を果たしたとは言い難い
・PDPのマニフェストは満足できる内容であった
・DPTが対インド関係を悪化させ、燃料費高騰を招いた?
・予備選で敗退した2つの政党が、PDPを支援した
もちろん、個別の選挙区を見れば、上記の理由では説明のつかない現象も、
そこかしこで起きているわけだが、総じて納得のいく結果に収まったと言える。
この「政権交代」が意味するところは何だろう。
DPT政権下のこの5年間は、残念ながら、十分な評価を得られなかった。
これは事実と言えそうだ。
対インド関係悪化については、言い掛かりの面も多い(むしろこの5年間は
良化に努めてきた)ようだが、確かに、輸入超過によるインドルピー枯渇問題、
都市部と農村部の貧富の差の拡大など、主に経済面での失策もあった。
ただし、前回選挙で、「全ての公約実現」を期待していたのだとしたら、
ブータン人は、初めての選挙だったとはいえ、あまりにも楽観的過ぎた。
今回、PDPはそのマニフェストで、「失業率ゼロ」や「ヘリポート建設」など、
大盤振る舞いを約束し、結果として、それが多くの支持に繋がった。
しかし、「ばらまき政策」との批判が既にあちらこちらで上がっている。
国家歳入の半分を海外からの援助に頼っている同国にあって、
いったいどのように実現するのか、あまりにも見通しの立っていない、
行き当たりばったりな政策ばかりが並んでいるように、政治の素人にも見える。
ちなみに、今回、わずか2票差、という大接戦の選挙区が2ヶ所もあった。
特にそのうち一つの選挙区では、2,743:2,741 という、
敗れた方としては、悔やんでも悔やみ切れない僅差であった。
そして、そのいずれもPDPが制した、というのもまた特筆すべき点である。
憲法の規定で、「国民議会の定足数は3分の2以上」と定められている。
つまり、PDPは、仮にDPTが国会決議をボイコットしたとしても、
単独で決議を行うことが可能な数を確保した、と見ることができる。
こう考えると、2選挙区での2票差は、あまりにも大きい差だったわけだ。
さて、こうした状況を踏まえて、新政権はどのような船出をするのか。
国会における、その第一声に注目が集まる。
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●改めて浮き彫りになった選挙制度の課題
ブータンの国民議会選挙は、全47の小選挙区で争う仕組みとなっている。
しかも、予備選挙を実施して、まず本選挙へ進む政党を2つに絞り込み、
全ての選挙区で一対一の戦いを行う、という一風変わった選挙を行う。
つまり、議席を獲得するのは、予備選を勝ち抜いた二大政党のいずれか、
ということになり、議席数が奇数であることから、必ず多数党が生まれる。
前回2008年、そして今回2013年ともに、DPTとPDPの一騎打ちとなったが、
その詳細な結果は以下のようになっていた。
2008年 DPT:PDP=45:2(議席数比)=67:33(得票率比)
2013年 DPT:PDP=15:32(議席数比)=45:55(得票率比)
前回は、PDPが3分の1の得票があったにも関わらず、たった2議席しか
確保できず、多くの選挙区で惜敗を喫した。
一方、今回は全くその逆で、DPTは得票率比では肉薄したにも関わらず、
議席数では3分の1に届かなかった。
選挙管理委員会のダショー・クンザン・ワンディ長官(※)は、
「合計すると僅差にも関わらず、議席数に開きが出てしまうのは事実」
と認めながらも、以下のように説明した。
「2008年に民主化をして初めて、政党というものが組織された。
いきなり、複数の政党が政治に参加した場合、
過半数を取る与党が無ければ、政治が混乱したかもしれない。
民主主義の実践の第一歩として、二大政党制を採用した。
民主主義にはいろいろなスタイルがある。
大統領制の国もあれば、首相がいる国もある。
多くの事例を参考にしながら、なるべくシンプルな制度にした」
また、もう一つ、ブータンの選挙制度で気がかりなのは、
昨今、日本でも大きな話題になっている「一票の格差」問題である。
例えば、今回、最小の選挙区では、902人の有権者によって投票が行われ、
358:444 でPDPが勝利を収めた。
一方、最大の選挙区は、実に16倍に相当する、14,648人の有権者を抱え、
4,267:5,051 で、こちらもPDPが勝利した。
方や、444票で勝利し、方や、4,267票と、その10倍を獲得しながらも、
苦渋を舐めた候補者がいた。
この点についても同様に尋ねたところ、
ブータンで小選挙区制を採用している大きな理由は、
「各県から公平に議員を送り出せるようにするため」
との回答であった。
そして、特定の地域への利権誘導を避けるために、
「有権者の人数を均等にするために、県をまたいだ選挙区を設ける、
ということはできない」と述べ、
「全ての県が最低2人以上の議員を輩出することが重要だ」
との見解を示した。
上記の説明は、納得のいくものではあったが、
しかし、現行制度が最良である、というわけでもない。
まだ、歴史上たった2回の選挙しか行われておらず、
制度の見直しの是非を問うためには、サンプル数が少な過ぎる。
とはいえ、小選挙区制、そして、予備選と本選の二段階制、という、
ブータン独自の国政選挙制度は、まだまだ多くの改善の余地を残しており、
次回選挙へ向けて、大いに議論されるべき課題であることは間違いない。
※「ダショー」とは、ブータンにおける爵位に相当する称号。
(続く)