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2013/07/17

ボーマルシェ「罪ある母」第2幕より

伯爵夫人ロジーナからケルビーノへの手紙

 不幸で無分別なあなた。私たちの運命は今こそ極まりました。
 あなたが育ち、勝手知ったる館で、私への夜の不意打ち
 その後の暴行、あなたの犯された罪、・・・そして私の罪
 私の罪は当然の報いを受けました。
 今日、当地の守護聖人、あなたの守り神、聖レオーネの祭日に 
 私は恥辱と絶望の印として男の子を産み落としました。
 みじめな予防策のおかげで名誉は守られました。
 でも、貞節はもはや望むべくもないのです。
 これからは涙の乾く暇もありますまい。
 しかし、涙が罪を消してはくれず、罪の結果は残ります。
 二度とここへ会いに来てはなりません。
 これは、絶対に取り消さない命令です。
 そう、もはやもう一つの名前を署名する資格とてない、
 哀れなロジーナの命令なのです。

ケルビーノから伯爵夫人ロジーナへの手紙

 
 二度とお目にかかることが叶わぬ以上、
 今はただ、厭わしいだけのこの命でございます。
 出陣命令は受けておりませんが、
 これから始まる城塞攻撃で勇んで散る所存です。
 頂きました非難の言葉、奥様の肖像、
 密かに頂戴していた巻き毛、
 すべて揃えてお返し致します。
 私亡き後、これをお届けする友人は確かな男でございます。
 私の絶望の一部始終を見届けてくれました。
 もし一人の不幸な男の死が奥様の心に残された憐憫の情を
 呼び覚ますことができましたなら、その男の子、
 他の幸せな方の後を継ぐその子の名前として、
 レオーネをお考えいただけないでしょうか。
 そうすれば時折、この薄幸の男の思い出が、
 奥様の胸に浮かぶこともございましょう。
 奥様を熱愛しつつ世を去る者の、最後の挨拶をお受けください。
 ケルビーノ・レオーネ・ダストルガ

その手紙の、血で記された追伸

 深手を負った私は、再びこの手紙を開き、
 自らの血で、苦悩に満ちた永遠のお別れを綴ります。
 どうぞ、思い出して・・・(後は涙で消されている)

皆さん、おはようございます。
この手紙が書かれたのは、フィガロの結婚から3年ほど後のことである。
20年たって、初めて伯爵がこの手紙に目を通した時、
それまで裏切り者だのと、ロジーナとケルビーノを罵倒していたのに、
手紙を読むなり、「これは悪者の書いたものではない」と認め、
無分別で不幸な者の過ちであり、胸が張り裂けそうだ、
という感想をもらすのである。
それがまた、この手紙の悲痛さを際立たせ、
涙せずには読めないのである。

フィガロ3部作の3作目は、
このような精神的土壌から出発するのだ。
私はここに至る話として、
「セヴィリアの理髪師」「フィガロの結婚」
そして「罪ある母」を1年のうちに一挙上演したい。

ボーマルシェがそんなことを考えたかどうかはわからない。
おそらくは意図していないだろうが、
人生の哀しみというものをじっくり味わうには、
一挙上演が適切であろうと思われる。

フィガロ3部作と私は書いたが、
3部作通じての真のスポットは、
アルマヴィーヴァ伯爵夫妻にある。
業、カルマというものが、
この夫妻にはしっかり刻み込まれているのだ。
そして、それが人の世の中というものなのだ。
目を背けてはいけない。
あなた達がしてきた恋愛の数々は、
いずれこうした悲劇となる可能性があったのだから。

2013/07/17 02:07 | bonchi | No Comments