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こんにちは、酒井孝祥です。
今日はこれからClub Junkstageがオープンしますが、その前にあった稽古が意外に早く終わったので、空き時間を利用してこの記事を書いております。
さて、ポーズを決めたりして格好つけたりすることを「見得を切る」と言ったり、自分の持っている力以上のことを見せようとすることを「見得(見栄)をはる」と言うことは、日常の会話の中でもあるかと思います。
この「見得」という言葉は、もともとは歌舞伎の演出用語のようです。
お芝居の中で役の感情が絶頂に達したときなどに、役者が足を踏み出したりした上で、首の角度をグッと傾けたり、首を回したりして、キリっとポーズを決める。
すると、ツケの木がパパンッ!となって、客席からは「○○屋!」と声がかかります。
その瞬間は、客席の目線はその役者に釘付けになります。
言ってみれば、お客さんのフォーカスを、舞台上でその役者一点に集中させる技法で、テレビや映画などで、一人の役者をズームアップで映し出すことに匹敵することを生の空間でやっているようなものです。
首が動いて顔が決まったときに、その顔がズームアップで拡大されるような、顔に吸い寄せられるような錯覚を感じることもあるかと思います。
劇画のスポーツ根性ものなどで、登場人物の顔がドアップにされて、背景に集中線やら炎が出ている様子は、見得を絵に置き換えたものと言えるかもしれません。
もともと歌舞伎というのは、お弁当を食べながら気軽に見るようなも江戸庶民の娯楽です。
これは、僕がどこかで小耳に挟んだ話で、ちゃんとした根拠があるのかはっきりしないのですが、弁当を食べているお客さんにも、ここだけは見せ場だからちゃんと見てもらえる様にと、視線を引き付ける工夫がされて「見得」が出来たという説もあるようです。
なお、「見得」は「切る」と表現されることが多いかと思いますが、一説によれば、「見得」とは「行う」ものだとも言われております。
日常で「見得」という言葉を使っていながらも、それがもともと歌舞伎の用語とは知らない人は多いかと思います。
普段使われていながらも、それが歌舞伎に由来すると知られていない言葉は、他にも沢山あるかと思います。
格好いい男性のことを「二枚目」と呼ぶのは、昔の芝居小屋で、色男の役者の看板が二枚目に掲げられていたことに由来しますし、ひょうきんな人を「三枚目」と呼ぶのは、滑稽なキャラクターをウリにした役者の看板が三枚目に掲げられていたからです。
得意なことを「十八番」と呼ぶのは、お家芸の「歌舞伎十八番」からきていますし、「幕の内弁当」とか「助六寿司」とか、食べ物の名前も歌舞伎に由来することがあります。
日常の会話の中で芸能の言葉が違和感なく入り込むほどに、日本人にとって舞台芸能は身近だったのでしょうね。
何百年も経っているのに、未だに死語になりません。
次回は、「正方形の宇宙空間」(古典芸能)をテーマにしたコラムをお届けします。