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2013/07/06

これまでの記事はコチラ

82.ブータンの「ネット選挙」(1)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=446

83.ブータンの「ネット選挙」(2)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=451

84.ブータンの「ネット選挙」(3)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=454

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さて、都議選が終わったと思ったら、あっという間に参院選の告示日を迎えた。
東京都内では、わずか1週間の静寂を経て、再び選挙カーが走り回っている。

去る都議選では、このJunkStageのライターの1人である音喜多駿さんが、
みんなの党(北区)から出馬して見事に当選を果たした。
そうした事情も相まって、JunkStage周辺では、こと今回の都議選の関心は高く、
友人、知人が、twitterやFacebookで話題にあげることも多かった。

ちなみに、「ネット選挙」の正式な解禁は参院選からなので、
都議選においては、ネット上での選挙運動(投票を呼びかける行為等)は、
一応、禁止されていた。

一応、と書いたのは、
候補者であれば、もちろん選挙期間中(告示日から投票日まで)のあいだ、
twitterやFacebookの書き込みやメール等を用いた選挙運動を行った場合、
厳しく罰せられることになるが、このネット全盛社会において、
一般の有権者まで取り締まるのは、実質的には不可能に近かったためである。

話を戻すと、上記のようなJunkStage周辺の特殊事情を除けば、
それ以外の繋がりの人は、「投票してきました」的な発言が散見される程度。
もちろん、「誰々を支持します」的な発言は「ネット選挙」解禁前なので禁止、
なのだが、本当に禁止だからやらなかった(リテラシーがあった)のか、
それとも、投票率43.5%という数字が物語る通り、関心が低かっただけなのか、
都議選の状況だけではなんとも判断しようがない。

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ところで、「ネット選挙」という言葉が盛んに飛び交っているが、
いったい何が出来るようになったのか、そして、何をやってはいけないのか、
よくわかっていない人も多いのではないだろうか。
筆者も、正直なところ、調べてみるまではよくわかっていなかった。

あまりこのコラム上で「ネット選挙」講座をやるつもりはないので、
関心のある方は、参考にあげたリンク先あたりをご一読いただきたいのだが、
ごく簡単に説明すると、
候補者は、ネット(Webサイト、SNS、メール)での選挙運動が可能になり、
有権者は、上記のうち、メールでの選挙運動は禁止となっている。

それから、未成年は、一切の選挙運動が禁止される。
例えば、女子高生が「××とかいう候補、イケメンだからみんな投票して!」
とか呼びかけるのはダメ、ということになる。

参考:総務省┃インターネット選挙運動の解禁に関する情報
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo10.html

参考:ITmedia ニュース┃参院選公示・日本初のネット選挙運動もスタート
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1307/04/news022.html

さて、こうした「ネット選挙」の解禁が、どういった意味を持つのか。
これも、筆者自身の研究テーマからは外れる話なので、専門家の声を引用したい。

「ネット選挙」に関する著書を持つ、社会学者の西田亮介氏は、

一般有権者にとって、もっとも重要な点は選挙運動期間中に電子メールの利用等一部制限は残るものの、インターネット・サービスやTwitter、Facebookといったソーシャルメディアなどで候補者や政党の名前を書き込む行為の「違法状態」が解消することである

と述べている。

出典:Yahoo! ニュース┃ネット選挙解禁で、有権者にとって何が変わるのか?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20130517-00025014/
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20130517-00025015/

つまり、先に指摘したように、「ネット選挙」リテラシーが高く、
ネット上で「選挙運動」に該当する行為をしないようにしていた有権者というのは、
実際にはごく少数で、大半の人達は、公職選挙法のなんたるかをよく知らずに、
twitterで、「××とかいう候補、選挙カーうるさすぎ。マジ落選すればいいのに」
とか、平気で呟いてしまっていた、というわけだ。

そして、今回の「ネット選挙」解禁は、その違法状態を解消する、
以上の意味を持たない、というのが西田氏の見解である。

—–

ブータンの話からだいぶ遠ざかってしまったので、少し引き戻そう。

個人的に、ブータンの「ネット選挙」の特異性の一つは、
「民主化した時点ですでにネット環境が存在していた」ことだろうと思う。

つまり、ブータン人にとって、自分の選挙区の候補者の良し悪しを、
twitterで呟いたり、Facebookで友人と議論したり、というのは、
当たり前のことであって、それが「禁止されていた」という経験が無いわけだ。

最初から禁止されていない、ことと、
押さえ込まれていたものが解禁される、ことの間には、
近そうで深い溝がある、に違いない。
というのが、今回のブータンの選挙に関心を抱いた一つの大きな理由である。

現時点では、まだ、ブータン人のネット上での議論というのは、
数字だけ見れば、それほど盛んではないようにも見える。
一応、各政党がFacebookの公式ページや、twitterアカウントを持っており、
そこで舌鋒鋭く政策をぶち上げたりしてはいるものの、
Facebookページの「いいね!」数は、
DPT(与党)が8,204、PDP(野党)が10,983、と5桁に乗るか乗らないか。
twitterアカウントの「フォロワー」数に至っては、
DPT(与党)が941、PDP(野党)が1,163、とさらに1/10になる。
(7月5日20時現在)

そもそも、ブータンは全人口で70万人程度と、東京の大田区程度しか人がいない。
太田区議選がネット上で大きな盛り上がりをするかというと、甚だ疑問である。
(大田区を貶めるつもりは無いし、もちろん、国政と区政は違うが)
そういう意味で、ネット上での議論を、量的な分析にかけようとしても、
おそらく良い結果は得られそうにない。

むしろオンラインだけではなく、オフラインの井戸端会議まで含めて、
どこで話題を仕入れて、それがどのように伝播していくか、
という一連の選挙コミュニケーションの在り方を捉えることができれば、
結構面白い話が出てきそうだ。

日常のコミュニケーションの中に「選挙」が組み込まれ、
それを「ネット上だから」と規制されること無く、SNS等で自由に話題にできる、
という点、その「当たり前感覚」が、ブータンの「ネット選挙」の特徴であり、
重要な要素ではないか、と睨んでいる。

(続く)

2013/07/06 12:00 | fujiwara | No Comments