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こんにちは。根本齒科室の根本です。
先日、何気なく取手駅のくまざわ書店の雑誌コーナーをふらついていて、びっくりしました。
「また何と分かりやすい歯医者叩きか」「こりゃいかん!何かコメントしないと」
慌てて一部購入し、持ち帰って目を通した結果wwwwwwww
(まぁ43野や超勉強法を持ち上げてるようなデフレ増税マンセーな所だから仕方ないか)
結論から言えば、読者・国民にとって一番大事なものを書き忘れています。
この執筆陣の理想とする歯科臨床・歯科環境が全く提示されていません。
(というか、彼ら編集部にはそれを書く実力や理解力がないからなのでしょう)
だから、一応場を繕うために出してきた解決策が、ぜんぜん解決策になっていません。
ふと以前、商業出版を試みてボツになったことを思い出しました。
<総論>
そのときは、たまたまS新聞出版社の方に、企画書の段階で興味を持っていただき、
いろいろお話をさせていただいたことがありました。
残念ながら、ボツになったわけですが、その方が話された内容がとても印象的だったのを覚えています。
「編集会議での意見なのですが、どうしても、当社は報道系の出版社なので、このような啓蒙的な実用書路線よりは、何か現場でしか分からない歯医者の裏側とか、スキャンダルなんかを好む傾向があるんです。私はこの(ボツになった)企画は面白いとは思うんですが(これはリップサービスでしょう)、会議では私の一存ではどうにもならないところもありまして・・・」
まぁ、そんなに簡単に本なんか出せるわけがない、とは思ってはいましたがw
「たとえば、こういう企画なんかだと・・・」
とその方がカバンから出して示してきたのは、週刊朝日の「特集!『インプラント使い回し』事件」の記事でした
・・・
(なぜ報道会社は、王道でなくてスキャンダルが好きなんだろう?)
(そんな目線では、かえって世のため人のためにならないと思うのに)
(そんな有害無益な姿勢なのは、じつは一般市民を嫌いだからだろうか?)
そのようなことを非常に強く考えさせられました。
本題に戻ります。
昔は、このような雑誌の特集やTV特集(クローズアップ現代など)があると、私たちは
「そうだ、そうだ」「権威ある○○社がいうんだからそうだ」と思うしかできませんでした。
情報源が一方通行で、かつ非常に数が少なかったからです。
私などは、もうハナから目も通さないのですが、複数ソースを容易に検索・比較検討できるネットが発達したおかげで、手元に既存メディアがなくても何も困ることがなくなりました。
ネットの発達は、本当に民主主義にとってよかった出来事だったと思っています。
ただ、その副作用として、一部SNSなどでの乱暴な発言やなりすまし、炎上なども問題になってきています。貴重なネット媒体を有効に活用するためにも、適切なメディアリテラシーの普及は欠かせません。
こんな感じの “異質な” 特集があるときは、基本眉唾で見るもんだと思っています。
むしろ、主張の反対側の立場から見るくらいで、ちょうど釣り合いが取れるかなと思います。
<さっそく>
まず冒頭でかでかと、この調子ですw
ちなみに、デザインは表紙も冒頭も、ヒビが入った歯の影が「¥(円マーク)」
アンチビジネスですよねぇ。。デフレ派の所だし。43野や超勉強法の所だし。
見開き2ページの頭書き(傍線は根本による註です)からもう
「(患者)争奪は激化」して「過度なもうけ主義に走る」歯医者に「だまされずに」「いい『歯医者』と『治療法』へたどり着ける」
題名が『Prologue 歯医者の泥沼』
その下のチャートが、でかでかと・・・
ひどいでしょう
歯医者過剰
↓
経営悪化
↓
患者争奪・歯学部劣化
うわー、ヤル気まんまんだ、宣戦布告じゃん
・・・
と思いきや、じつはちゃんと叩き切れてないかな、というのが、その意味での直感です。
ひとつ、随所に「金儲け」という言葉が出てくるのが、非常に気持ち悪さを感じます。
これ、マスコミの好きな「官僚叩き」「族議員叩き」「既得権益叩き」などと同根の発想でしょう。十派一からげに「歯医者は金儲け主義」と印象操作してしまったほうが、「見るほうも」「発行する方も」頭を使わなくていいから楽なんだと思います。
ただ、、総論や冒頭で一生懸命悪口や罵倒を並べて方向付けをしようとしているのですが、各論や細部に行けばいくほど「悪くないニュアンス」の内容が増えて、罵倒が減っていきます。
問題は、肝心の「悪くないニュアンス」の方向性に確たる芯がないのです。これだけじゃ読者困るだろうなぁ、という点が一番懸念です。
私は、とりあえず良さそうな歯医者の一覧だけ載せて、という方法には決して与しません。
まず第一に差別的ですし、読者の間で「いい歯医者は安心だが悪い歯医者は心配だ」という分裂意識や不安を持たせこそすれ、読者の自立や行動改変に資するとは思えません。
「いい歯医者を探して行けるから良いではないか」という意見もあります。
しかし考えてください。
それは(修復)治療のために行くところです。
己の不始末の尻拭いの場合もあるかもしれません。または、過去の潮流で現在の基準ではオーバートリートメントであったり低精度であったりする修復のやり直しなのかもしれません。
これらは、飽くまでも「『後始末』のすすめ」であり、私が真に必要だと考える、お口の自己防衛や強靭化の方向には決して進んでいません。
深く読み込めばたしかに一理あることもたくさん散見されます。しかしそれぞれにまとまりがないので、これではなかなか中身や趣旨が読者に伝わらず、冒頭や出だしのイメージに引きずられて
「何やようわからへんけど、とりあえず歯医者=悪やねんで」
で終わってしまいます。
一応見出しと寸評を。
◇ Prologue 歯医者の泥沼
ここまで客観的事実を出して、まだ歯医者叩きに持ってくとか、冷たい編集部だな
◇ Part1 治療費のカラクリ
先進国インプラント出荷本数の減少は「不信感」でなく「治療終了・欠損減少」が主因
P37歯周病たたきはイヤラシイ(素人目にわかりにくいと思うけど)
◇ Part2 インプラントにだまされない
叩くならNHKをもっと見習ってwハリボテ資格より類似症例の資料説明
入れ歯でステーキ、矯正でゴルフ上達は、基本期待しないでください
(ひとつ、すごく重要なことがさらっと書いてあります)
◇ Part3 歯を守る技術最新事情
歯周病はP37とP52で言ってるニュアンスが真逆。混乱の元
セルフケア(日々の歯みがき)はプロが関与しないとほぼ無意味
◇ Part4 いい歯医者悪い歯医者
「独り善がりの歯医者は避ける」?逆だろ逆。理を説く力は理ではない信頼感。
ここで20ページも使って全国の歯医者さん一覧?意味不明。
◇ Part5 歯医者・歯科大の末路
「供給が需要を生む」セイの法則?逆でしょ逆!潜在需要の喚起が鍵。時代はケインズw
「供給が需要を生む」がおかしいのは、私大乱立を見ても明らか。早く医学部に転換を
保険技工は正直厳しい。最大の原因は治療費が安すぎること(残念ですが)
以下、それぞれについての詳細なコメントを書き蟲って逝きます。
◇ Prologue 歯医者の泥沼
その前の見開きから説明していきます。
黄色や赤の傍線部の文の出だしに「明らかな供給過剰である」とありますが、これは日本の特殊な国情を加味すると供給過剰ともいえますが、OECDの20か国でいうと平均的な数です(日本の歯科医療の数値データをちょっぴり・・)。
結構「歯科医師過剰」はミスリードの出だしに使われることの多い単語なので気を付けてください。
上記リンクは私の書いた過去記事ですが、平先生の力作のおかげで結構まとまっています。お時間のある方は合わせてお目通しください。
ではPrologueに行きます。
[ 引用 ]都内の男性歯医者は勤務していた歯科診療所を退職した。「なぜ今の患者の歯を削らなかったんだ」「なぜ抜かなかったんだ」。院長から叱咤され続けてきた。(中略)しかし、削ったり、抜いたりしなければ診療報酬にはつながらない。院長が求めるのは、金を生む歯医者だった。
たぶん、金儲け=削る、という抜きがたいニュアンスがあるのでしょう。この頭が古い。
安易に削るのが良くないのは、当然ですが歯は自然治癒しないので、削る行為そのものが非可逆的行為だからです。一回削った歯は二度と戻らないし、境界線が再度よりハイリスクになるからです。
Part3にも出てきますが、一般的な傾向として、残す治療・削らない治療のほうが「若干」保険よりは高めです。
ざっくり言って、一般的な自由診療の差し歯(5~10万)の、ゼロが1つ少ないイメージです。
むしろ、日々身を削って、国民医療費の抑制に大いに貢献している歯科医師に、感謝とは言いませんが労いや同情の言葉のひとつくらいあってもいいのではないでしょうか。ココ(口腔de強靭化?!)でも書きましたが、医療費には昔から
3×8=24(さんぱにじゅうし) の法則
というものがあり、国民医療費がだいたい30兆、歯科医療費はその8%で2兆4千億と、ほぼ決まっています。
最近は医科医療費と薬価が伸びていて少し増えていますが、全体としては大きく変わっていません。とくに歯科はほぼ完全な横ばいです。
[ 引用 ]国民医療費全体が膨らんで国の財政を圧迫する中、歯科の医療費は厳しく抑制されており年間2兆5000億円前後の横ばい。他の先進国がそうであるように虫歯予防の意識が高まるにつれ、虫歯の数は減っている
そりゃ、日本以外では高い(修復)治療から身を守るため、必死になって安上がりの予防に励むからです。
逆に、(修復)治療に依存してしまって、自助努力が頭の中で消えてしまっていたのがかつての日本です。
この部分を描いた人の頭が、完全に事前的モラルハザードですね。
[ 引用 ]市場規模は変わらないというのに
もう立ち位置がド素人。そっち(安上がりのバンバン削る治療)の方向に市場開拓を進めたらダメだってさっきから言ってるのに、これですから。
[ 引用 ]歯医者の頭数は増えるのだから、取り分は減る。総じて歯科診療所の経営は悪化した。稼ぎを確保したい歯医者たちは、患者が全額を自己負担する自由診療に群がった。中でもインプラント市場にこぞって参入し、
何という下品で卑しい言葉の数々なのでしょう!これではほとんど容疑者の素行の記述です。
まるで「小沢新聞日刊ゲンダイ」の自民叩きを読んでいるようです。
しかも、公党であれば政策の違いがあるので批判に対処たり説明したりするのも大事な仕事のうちなんでしょうが、ここで叩いているのは、ほとんど何のバックボーンもないので叩きやすい零細個人事業主です。たまたま免許があるというだけで、犯罪者でもない個人を、全国誌の紙面を使って罵るというのは、公正性やフェアネスに照らして、どうなんでしょう。
とか言ってる割には、「自由診療に走る」棒グラフを見ても、全然走ってない走ってないw横ばい横ばい。
(2枚目の図の左上の棒グラフ)
アレですよ。ここ2~3ヵ月の株価の乱高下を見て「安倍バブル終了」などと言っているのといっしょですよ。
1年前なんか、民主党と白川のせいで、日経平均8000円台だったんですから。
株が上がれば「物価高で生活苦」株が下がれば「日本終了」こういうのを下種の勘繰りというのです。
どっちにしても叩きたいだけ。
[ 引用 ]歯医者の技術不足や強引な営業によってトラブルが多発した。歯科医療に対する国民の不信感が生まれ、自由診療の市場も患者離れで伸び悩み、歯科診療所経営はますます悪化していく。
これについては、<総論>の冒頭で書いた、出版社の方が出した記事「インプラント使いまわし事件」が思い出されます。
あと、アレだ、野田(佳彦)さんの後援会長だった元歯医者とか、やっぱり、一部の豪勢な面々が目立つというのはありますね。
個人事業の場合は、大きな組織と比較した弱点として、コンプライアンス面や内部統治の包括的な担保が構造的に困難だという面があります。
そこで、どうしても一部に大きくはみ出した感じの人が出てきてしまいます。
同時に、読者の方々には、このような報道が出たときに、(どうして歯医者はみんな開業してるのか?)(なぜいい安定的な勤務先が拡充しないのか?)ということにも思いを馳せていただきたいのです。
もちろん院の臨床スタイルや提供プログラムも大事ですが、修復治療は下は詰め物から上はインプラントまで、結局はすべて職人芸的な面が非常に大きいので、患者様が何に付いていくかというと先生とか個人に付いていくんです。だから、規模の経済がとても利きにくいのです。
ちなみに私のところは、予防と自由診療は伸びていますが、保険診療の伸び悩み(と無断or突発キャンセル)に真剣に悩んでいます。インプラントは症例を選んで慎重にお話ししているので、あまり伸びていません。年間100本もだいぶ先です。。
残りは次回。
【今回のまとめ】
この雑誌は歯医者を叩きたいのか叩きたくないのか不明。結論は持ってないことが判明