« ■サッカー三昧のバンコク | Home | 今どきの車は電化製品 »
手紙にはこう書かれてあった。
アーラーラ・カーラーマとウッダカ・ラーダ・プッタ、
この二人の下を辞したゴータマ・シッダッタは、
苦行林に入るべく、その前にネーランジャラー河の岸にやって来た。
「今日はここで夜を明かし、苦行林に入ろう。」
夕暮れの時が迫っていた。
「2人の仙人の境地なんかクソだ。
瞑想から覚めれば、また苦しい現実しかない。」
後に「有所無処」と呼ばれるアーラーラ仙人の境地も、
「非想非非想処」と呼ばれるウッダカ仙人の境地も、
シッダッタの欲する境地ではなかった。
彼が欲するのは、苦悩を完全に滅した境地で、
もう戻らない、落ちない境地なのであった。
そこへ軽やかな歌声とともに、一人の女性が通りかかった。
シッダッタは声をかけた。
「おい、そこの女。食いものはないか?」
女性はいぶかしげにシッダッタを見た。
風体は修行者、しかし修行者はこんな時間に食を乞わない。
大抵は日が南天高く上るまでの間に托鉢をし、
食べてしまうものなのである。
「この壺の中に乳粥はありますが・・・」
「それでよい。食わせろ。」
・・・ずいぶん横柄な行者だこと!
そう思いながらも尋ねた。
「修行者の方が今頃お食事なさってよろしいのですか?」
「うるさい!どうせ明日からは苦行林、
ほとんど飯など食わんつもりだから。
今のうちに食べておくんだ。現世の名残にな。」
・・・何て不真面目な人!
「貴様、名前を何と申す?」
「・・・スジャーターと申します。」
シッダッタはたらふく食べると名前を尋ねた。
「スジャーター、腹ごなしだ、来い!」
え?どこへ・・・と問うまでもなく、
スジャーターは腕を掴まれて森の中に連れて行かれた。
「俺は王族の生まれだ。
あんな広いところでするのは好まん。
さあ、脱げ。」
シッダッタはぼろ布としか言いようのない布を体から落とし、
立ち尽くしているスジャーターの着衣をはぎ取りにかかった。
スジャーターは恐怖で逃げようとしたが、
王族、即ち武士階級で鍛えた男の腕から逃げられるものではなかった。
逆にその勢いを利用して、シッダッタは女を丸裸にした。
宮殿の女たちは、みんなシッダッタの子種を授かろうと、
向こうから媚びを売ってきては抱かれていった。
抗う女というのはスジャーターが初めてで、
興をそそられたシッダッタの逸物は怒張していた。
「明日からはしばらく女も抱けんのだ。
ひょっとしたら死ぬかもしれん。
今日はお前が俺の伽をしろ。
俺は王族だ、ありがたいと思えよ。」
森にはスジャーターの絶叫が響いたが、
もし人がいても獣の叫びとしか聞こえなかっただろう。
シッダッタは乱暴に、しかも幾度となくスジャーターを犯した。
こうして夜が明け、シッダッタは苦行林へ入り、
スジャーターが森の中に残された。
それから5年以上の月日が過ぎた。
シッダッタは苦行林ではちょっとした有名人だった。
一番過酷な苦行を繰り返しているのに、
いつまでたっても死ぬことがないのだ。
長期間の断食でやせ細りはするが、
それでも餓死したりしない。
もう多くの、シッダッタより期間の短い行者が、
次々に飢えて死んでいってるというのに。
だが、それでもシッダッタは目的に到達出来ていなかった。
死の恐れが最後まで付きまとった。
「ダメだ、苦行では・・・」
シッダッタは苦行林を出る決心をした。
決心さえ固まれば、所有物もない苦行者のこと、
ただ立ち上がって出て行けばそれで終わりだった。
ネーランジャラー河で沐浴し、近くの木の下に座って休んだ。
何を考えるでもなくボーっとしていると、
何か器のようなものが目の前に置かれた。
「シッダッタ様、供養させていただきます。」
ふっ、苦行林を出ても俺は有名人か・・・さすが王族だ。
お、女からの供養か。
何か食べないといけなかったからちょうどいい。
手を伸ばしかけてシッダッタはのけぞった。
その器のようなものは器ではなかった。
いや、器には違いないが、どう見ても子供の頭蓋骨だった。
それも、赤子の頭蓋骨であろう。
中の物を見て、シッダッタは凍りついた。
何か得体のしれないものがドロドロとしていて、
耐え難い臭気を放っていることに気が付いた。
「なんだ、これは!?」
「赤ちゃんの脳みそと私のお乳」
脳みそといっても原型はとどめておらず、
母乳といってもそれはもう血液であり、
しかもどちらも腐り果てていた。
「そしてお薬を混ぜたの、さあ飲んで」
「こんなものが・・」
「シッダッタ様のお好きな乳粥よ」
女は顔を上げた。
その顔に、何となく見覚えがあった。
「どこかで会ったか?」
女は笑ったが、目の焦点は合っていなかった。
「これを飲めば、あなたは悟れるわよ」
女はスジャーターだった。
忘れていたシッダッタも、ようやく思い出してきた。
そして、この時シッダッタに神通力が働いた。
他心通と言われる、相手の心を読み取る能力だ。
あの一晩のまぐわいで、スジャーターは子を宿した。
しかし、犯されたショックで精神を病んでおり、
生まれた子供はしばらくして、河で沈め殺してしまった。
その上、頭部を切り取って、頭蓋骨を器にし、
脳みそをとって、母乳を注ぎ込んでいたのだ。
数年の歳月はそれらを十分に腐らせた。
「さあ、飲んで!」
スジャーターは器をシッダッタの眼前に突き付けた。
その後シッダッタが49日もの深い瞑想状態に入り、
究極の覚醒を得たことは有名な話である。