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2013/06/20

ぼくは庭をふらふらと歩いていた。
夏のこととて夕方でも日差しは強い。
だけどぼくは汗をかくこともなく、
ただふらふらと歩いていた。

庭では造園業者が作業をしている
ここは良家の邸宅、
それなりに立派な庭だ。

縁側ではそろそろ小学校に上がる坊やが、
母親と遊んでいる。
坊やが庭に何かを見つけるのと、
ぼくがそれを見つけるのとがほぼ同時だった。

それは、一枚の葉にくっついたカタツムリ。
くっついてはいるものの、進行方向を間違えたのか、
今にも地面に落ちてしまいそうだ。
その葉は結構高いから垂れ下がっていた。
ぼくにはわかった。
坊やが、カタツムリが落ちてしまうことを心配しているのが。

その時だった。
急に空が黒くなったと思うと、
結構な強さの雨が降り始めた。
カタツムリは、ますます落ちそうな領域に進んでいる。

坊やはハラハラしながらカタツムリを見つめている。

造園業者は雨を避けるべく、
バタバタと撤収を始めた。
カタツムリが地面に落ちたら、
雨から逃げる業者たちの足に踏みつぶされてしまうだろう。

この坊やは、数十年前もそうだったのだ。
人に踏みつぶされそうな蟻にも、
投げつけられそうになっているてんとう虫にも、
ハラハラしながらその命を惜しみ、
哀れむことの出来る女性だった。

ぼくは一緒に生まれ変わりたくて、
ずっとそばにいて待っていたのだけれど、
あの人はそんな慈悲の心がプラスに働いたのか、
亡くなるなり、ぼくがまごまごしている間に、
この家の坊やとして生まれ変わってしまった。

ぼくは、次のチャンスをと思って、見守ることにした。
あと何年かな?

カタツムリは歩みを止めた。
業者はみんな家に入ってしまったようだ。
とりあえず心配は必要なさそうだ。
坊やはぼくにニコッと笑いかけた。
ぼくも親指を立てて笑いかけた。

2013/06/20 12:52 | bonchi | No Comments