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2013/06/15

それは長い時間を生きていく上でたったひとつの小さな選択にすぎなかった。

一歩踏み出した足をどこに置くか・・・。

一瞬の出来事だった。

ほんの数センチ、足の置き場が違っていれば命を落とすことなどなかった。

雪解けで少し増水はしていたが、決して彼の命を飲み込んでしまうほど恐ろしい

流れではなかった。

だが、一瞬の誤りが彼の一生を狂わせ、生命の針を一気に終わりまで早回して

しまった。

近くにいた母鹿はすぐに駆け寄っていったが、小鹿が流されて引っかかった急流の落ち込み

までは近づくことはできなかった。

母鹿は小鹿の姿を見つめながら呆然と立ち尽くしていた。

この現実を理解するまでにしばらくの時間が必要な様だった。

やがて、母鹿は何かを割り切ったかのように、すたすたと振り返ることもなくこの場を

立ち去っていった。

小鹿は息絶えた後も水の流れを浴びていつまでも手を震わせていた。

 

命あるものは全て、無限の可能性を秘めている。

輝かしい栄光を遂げることも、どうしようもない失敗を犯すことも、そして生命の幕を

閉じることも、全てはたった一つの選択が結果を左右する。

あっけないほどの現実を前に、生命というものの果敢なさを知り、命あるもの全てが

秘める無限の可能性を実感した時間であった。

 

 

 

2013/06/15 03:46 | yamada | No Comments