« 公開レッスンで嬉しい刺激 | Home | Club JunkStage テーマソングPART2 「めめ」 »
皆さん、おはようございます。
それでは詩人の恋後半と、
その後に演奏する私の歌曲ふたつを見ていきましょう。
今回が最終回です。
第10曲 心の中にあの歌が響いて
君の歌ってくれたあの歌が聞こえてくると、つらくて胸が張り裂けそうだ。
そうだ、あの丘の上で泣こう。涙の中に、この悲しみを溶かしてしまおう。
この曲は前奏から涙を表現しています。
が、自筆譜ではそのようにはなっていません。
同じように下降形なのですが、シンコペーションがなく、
涙のようには聞こえないのです。
この曲は完全に現行版に軍配が上がってしまう曲です。
第11曲 ある若造が恋をして
ある娘は失恋してやけっぱち。行きずりの男を逆ナンしてお持ち帰り。
その娘に惚れていた若者の惨めさはご覧になりました通り。
これは昔話ながら今もある話。被害に遭ったらギザギザハートの一丁上がり。
ずいぶん現代的な表現で大意を書きましたが、
曲調と現代の感覚を合わせると、こういう書き方もありでしょう。
私はこの曲を、ヤケ酒食らって酔っぱらった体で歌います。
一見コミックに見えるでしょうが、
この後には泣き上戸になるんではないでしょうか。
第12曲 明るい夏の朝に
ある明るい夏の朝、麗しい花々は悲しみ彷徨う僕に囁いた。
「私達の姉さんを悪く思わないでね。悲しげに蒼ざめたお兄さん。」
花が囁いてくれるのだから慰めてくれている、
と普通には思ってしまうでしょうが、
セリフを見たらわかるように、女性側を庇っています。
もちろん花がそんなことを言うはずはない。
つまり、男の被害妄想とも言うべきこのテキストに、
シューマンは不可思議にして魅力的な音楽をつけているのです。
第13曲 夢の中で泣いた
夢の中で泣いた。君が墓の中に横たわっている夢だった。
夢の中で泣いた。それは君に振られた夢だった。
夢の中で泣いた。君が僕を愛してくれている夢だったのだ。
詳しく言えば、泣きのボルテージは後に行くに従って上がるのです。
つまり、良いシチュエーションの夢ほど、
悲しみ、特に目覚めた後の悲しみは大きく、深いのです。
恋においてご経験はたくさんおありでしょう。
第14曲 夢の中で君はいつも優しく
僕は毎晩、あまりにも優しい君の夢を見て、たまらず可愛い足元に泣き伏す。
君は頭を振り、何か囁いて糸杉の束をくれるんだけど、
目が覚めたら糸杉なんてなかったし、君が囁いた言葉も忘れてしまっていた。
前曲と比較してみて下さい。
前曲は、いろんなシチュエーションの夢を見ていたけれど、
今では目覚めた後が残酷な、愛し合ってる、
というシチュエーションの夢しか見られなくなっています。
それが、とてもさりげない陶酔の曲になっています。
悲しみを前面には出さないのです。
第15曲 昔のメルヒェンの国から
昔のお伽噺の世界に生きていたい。美しく、楽しいメルヒェンの国!
でも時々夢に出てくるだけ。朝日が昇れば泡みたいに消えてなくなってしまうんだ。
今度は現実逃避願望です。
つまり、この段階でまだ失恋というものはリアルタイムであり、
逃避したい対象、即ち現実としてあるようです。
それを苦しみを訴えるのではなく、ひたすら逃避先のことを述べる。
このあたりの非現実性こそ、「ロマン」という言葉の定義です。
第16曲 過ぎし日の苦々しい歌を
過ぎ去った日々の忌まわしい歌を埋葬してやろう。大きな棺を持ってこい。
それに長い棺台と、運び手の12人の巨人も連れてこなければ。
皆さん、おわかりでしょうか?この棺がなぜ、こんなに大きく、重いのか。
それはこの棺の中へ、苦しみに満ちた恋をすべて納めたから。
格納できたとお思いでしょうか、皆さん?
無理やりのように歌曲集を終わる歌に対して、
その後の後奏が本音を語っているように思えます。
ぼんち流詩人の恋、如何でしたでしょうか?
2ヶ月のの8月3日、今度はほわっとにて、
すべての曲を自筆譜状態にし、
削除された4曲も復活させたシューマンの初期稿を演奏致します。
さて、蛇足かとは思いますが、
その後に私の作品を2つ、ご紹介して、
アトリウムコンサートの幕引きとしたいと思います。
最初の曲は、1ステージでご披露する、
「式子内親王」「陽成院」と同時期に作曲した、
「西尾幸紘」というものをご披露します。
ただし、私の旧俗名を掲載するのも如何かと思いまして、
「旧邑の花に寄せる歌」というタイトルにて演奏致します。
なぜ私の名前がついているかというと、
私の作った和歌に曲をつけたからです。
実は、和歌に曲をつけるにあたって、
この曲が一番苦労しました。
作詞者の私が納得できるものが、なかなかできなかったのです。
ただ、完全なシンガーソングライター状態ですので、
これまで表に出してこなかった私の音素材です。
よって、これが公開の世界初演と相成ります。
私が一番好きなのは、前奏と後奏、という
少し変な曲です。
やっぱり自作の歌詞ってのは照れるんですかね。(笑)
今一つは、「四月のたより」という、
産経新聞の1面、「朝の詩」という欄にあったものに
曲をつけた・・・といっても、2001年の話ですが、
それを演奏して終わりにしたいと思います。
目の前にいない、大好きなあの人に手紙を・・・
そういう悲しさを持った歌です。
では、最後に「旧邑の花に寄せる歌」を。
ともに咲き ともに散りたし 我が園に
永遠に咲きませ 旧邑の花