« スゴイね!? | Home | Club JunkStage テーマソング PART1 「葵」 »
庭の端まで来ると林道の向こうの笹薮のほうから、
1,2,3,4,5,6,・・・・
川の流れる音と一緒に、
数を数える声が聞こえます。
森に中で作業をしていると、
突然管理人が、
『電源コードを貸してくれや』と、
足下をビショビショに濡らしながら現れ、
電源コードを掴むと再び林道の向こう側の、
笹薮の中に消えて行きます、
林道の際の凹んだ部分に軽トラを残したまま、
2時間程過ぎた頃でしょうか、
林道の向こうの笹薮の中から、
管理人の悲壮な声、
『引っ張ってくれんか、オオ〜〜〜イ』
『オオ〜〜〜〜イ、ダレカイルカ』
私がビックリして笹薮の中に踏み入ると、
そこは背丈以上の笹薮の為、
まったく管理人の姿が見えず、
それでも声のする方に笹薮を踏み分けて行くと、
電源コードを持った管理人が力つきて笹薮の中に座り込んでいます、
まるでその様子は熊に教われたのか、
とんでもない事件にでも巻き込まれたかのように顔面は蒼白、
管理人の口から出て来た言葉は、
『悪いけど歩けなくなったから、引っ張ってくれや』
水中ポンプを横に置いて、
電源コードを持ったまま私の方に手を伸ばしています、
土の上に座り込んだ管理の話しをよく聞くと、
どうも自分の造園業の職人と2人で、
毎年この笹薮の下の川にイワナ取りをする場所があり、
いつもは素手でイワナを生け捕りにしていたのに、
今年は水量が少ないという事でその周辺を岩で囲い、
水中ポンプで水をくみ出し、
イワナを一網打尽にしたそうです、
水中ポンプを動かすのにどうしても電源コードが欲しかったそうです、
ところが川から戻る事となると、
川から林道までは笹薮の上り坂、
70後半の太り過ぎの管理人の身体には、
顔面を蒼白にするには十分な道のりだったようで、
泣いているんだか喜んでいるんだか、
見分けのつかないような様子、
太った管理人を笹薮から連れ出し道まで出て来ると、
回り道を通って来た職人がバケツに入ったイワナを見せてくれます、
全部で15匹、
一番大きい奴は35センチの大物、
『それにしても今回はやっかいだったな』と一言、
そう言えば毎年この季節になると、
他県のナンバーの車がこの林道に入って来て、
ゴム長を履きフライの疑似餌をいっぱい胸に付けたチョッキを着た、
まるでビーパルから抜け出て来たような釣り人が、
川に入ってく光景を良く目にしますが、
70後半を過ぎた太り過ぎの管理人、
60後半を過ぎた身軽な職人、
どうも毎年2人でイワナ取りをやっているそうで、
今年は思い切って水中ポンプを使う事にしたらしいようです、
この2人のイワナ取りは、
何十年も前から続いているそうで、
実に骨太の遊びのようです、
それにしても、
2人の表情を見ていると、
まるで子供のようにはしゃいでいるようにしか見えません、
ただ、体力だけは年相応に衰えている事を覗けば、
山間に住む老人たちの遊びは過激で、
いつも子供の時のように遊ぼうとするから厄介ですが、
私もこれから先、
この山間に住む事になれば、
こんな遊びを毎日出来るのかと思うと、
どこからともなく笑みが、
こぼれそうになっている自分が、
子供の時に戻って行くようです。