« お茶会のお菓子 | Home | 小学6年生のキャリア教育に招かれて② »
日記帳
藤田圭雄 作詞
小林秀雄 作曲
ブーゲンビリアの 茂みの中に
ぼくは小さい日記帳をかくした
風が吹いて 花がゆれると
あなたのイニシャルが飛び散って
ぼくは窒息しそうだった
朝は必ずその上に 虹がたった
夕方になると キラキラ光る大きな星が
静かにその茂みを 見つめていた
その日記帳には
初めからおしまいまで
あなたの名前だけしか書いてなかった
あなたの名前を書くだけで
ぼくの日記帳はいっぱいになった
ブーゲンビリアの茂みの中に
ぼくの小さい 日記帳は
今日もあなたの名前を
呼びつづけている
※※※※※※※
今日は出所の日だ。
半年間、ぼくはここにいた。
だが、何もしていない。
罪になるようなことは何一つ。
しかし、状況証拠やら証言やら、
何より、蓉子ちゃんのぼくに対する嫌悪感で、
ぼくはここに収監されることになったのだ。
「主文、被告人を懲役六月に処する。」
非情な女性裁判官の声が法廷にこだました。
ぼくは信じられなくて、あたりを見回した。
居並ぶ人々、女性は嫌悪感を露わにし、
男性は軽蔑と勝利の表情でぼくを見下ろしている。
「ぼ、ぼくは無実だ!」
思わず叫んだぼくに、「静粛に!」
裁判官の声が降ってきた。
判決理由を読んでいたのだ。
だが、ぼくにはそんなものわかりっこない。
ぼくにわかるのはぼくだけの真実。
ぼくは泣いた。
悔しくて泣いた。
「まあ半年のことだ。頑張っておいで。」
これは弁護士の言。
ぼくを守るべき弁護士さえ、
ぼくの無実を信じてくれない。
ぼくは独り身だ。
家にいたが最後、アリバイを証明する人はいない。
ぼくは最近、滅多に家から出ない。
食べるものや生活用品はほとんどネットで買う。
でも、近所に一人だけ親切なおばちゃんがいて、
ぼくの悩み、愚痴に耳を傾けてくれる。
そのおばちゃんの証言がぼくの運命を決めた。
「よく蓉子ちゃんのことを相談されました。」
おばちゃんは蓉子ちゃんと直接話すことを、
いつも勧めてくれていた。
でも、ぼくにそんな勇気はない。
小学校の頃、ある上級生に告白をした。
見事に振られてからというもの、
もう数十年もの間、告白なんてしたことない。
窓から蓉子ちゃんを見ているだけで、
声一つかけることができないんだ。
ぼくは一冊の日記帳を買った。
もちろんちゃんと日記をつけるつもりだったよ。
でも、何も書くことが思い浮かばない。
毎日毎日、考えることは蓉子ちゃんのことばかり。
知らない間に、日記帳は蓉子ちゃんの名前で埋まった。
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん蓉子ちゃん
日記帳が最後のページを結んだその夜、
ぼくは日記帳を持って表へ出た・・・。
それから数日後、ぼくは逮捕された。
お決まり通りの過酷な取り調べ。
ぼくは一度も認めたことはない。
だって、どれもこれもぼくのしたことではないから。
そんなある日、刑事が勝ち誇った顔で、
一冊の本をぼくの目の前に置いた。
すでに筆跡鑑定済みだという。
ぼくは素直に認めた。
これがぼくの手によるものであることだけ。
ことはとんとん拍子に進み、
懲役六月の判決が下りた。
蓉子ちゃんはストーカー被害に遭っていた。
かなり恐ろしい目にも遭ったようだ。
でも、それはぼくじゃない。
※※※※※※※
蓉子ちゃんの提出した被害届
ブーゲンビリアの 茂みの中に
わたしは小さい日記帳をみつけた
中略
その日記帳には
初めからおしまいまで
わたしの名前だけしか書いてなかった
この日記帳で心底恐ろしくなり
警察に告訴したのだそうだ。
もう日記帳に蓉子ちゃんの名前を書くのはやめよう。
注:ブーゲンビリアの花言葉
「情熱」「魅力」「あなたしか見えない」