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2013/05/20

――また、没。

通算で3回目の駄目だしを食らい、戻ってきた企画書をシュレッダーに突っ込んだ。じじじじと裁断されていくのは書類だけじゃない。細い紙の束を吐きだし続ける箱の前で佇む俺を、フロアの連中は空気のように扱っていた。ああ、またかという視線すらもらえない。エリートばかりが集まるこの会社に入れたことを喜んだ俺は、その中で事実落ちこぼれの部類に入っているのだった。

不動産営業に見切りをつけてコンサルに転職したのが今年の春で、俺はそのとき限りない程の自信に充ち溢れていた。前職では売り上げも伸ばしていたし、顧客の反応も良かった。扱う物件が多かったこともあって、俺はその地域では一番の成績を誇った。ただ、その分労働と給料が見合わないような気もしたのも事実で、もっと稼げる仕事に転職したかった。だから前々から当たりをつけていたこの会社に採用されたときは飛び上るほど嬉しかった。

外資企業のいいところは、完全とはいかないまでも大部分が実力主義で報酬を決めてもらえることだ。頑張れば頑張った分、売りあげれば売りあげただけの評価がなされるというのは俺にとって最大の魅力だった。ここなら自分は正当に評価してもらえる、そう思って飛び込んで来た異業種だった。けれどそれは誤算だった。正当に評価された結果が、今の俺の状態なのだから。

「悪くはないんですけどね、なんか二番煎じって気がするんですよね」

俺より二つ下の部長は、そう言って提案書を却下した。二番煎じ。具体的にどこが悪いという訳ではなく、内容がありふれていると云いたいのだろう。斬新な企画を求められていることは分かっても、それは俺の中にはストックがないものだった。

この会社の手掛ける案件は幅広い。自社物件のマンションや戸建を次から次に売る前の仕事のノウハウはユニークな企画を求める仕事に活かせる道は少なかった。同僚たちもほぼ別業種からの転職組で、追いつきたいとデザインの勉強を初めて見ても付け焼刃なのは分かるのだろう。俺に任せられるのは前の会社と似たような中小の不動産企業のコンサルティングで、そこで働いていた身であれば同業種のデザインは見尽くしている。自然、出てくるのは見たことのあるものばかりになってしまうのだった。

自分でもこのままではよくないと分かっている。斬新な企画。新しい手法。会社の運営をトータルでサポートするという仕事は非常に魅力的だったが、反面評価が出にくい部分もある。社員評価のシステムを考えるのも会社ごとに仕組みが違い、一概に過去の手法を切り捨てるわけにもいかない。それが分かっているからこそ、俺は迷ったし迷いは企画に現れる。

「向いてないんじゃないのかな」

部長の言葉を思い出し、畜生と臍を噛む。才能がないと云いたいのか。才能なんて後付けじゃないか。なめんな、と俺は思う。次こそはきっと納得させてみせる。次こそは俺を認めさせてやる。

ぎらぎらした情熱と粉砕されていく俺自身を見つめながら、俺は必死で新しい企画を練り直す。

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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2013/05/20 12:41 | momou | No Comments