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2010/01/07

新年明けましておめでとうございます。
忙しさにかまけてなかなか投稿せず、申し訳なく思っております。
今年こそは、転職漁師の生き様をたくさんお伝えしようと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

新年一発目は、すこし厳しいお話です。

漁師に酒飲みと煙草飲みが何故多いかについての勝手な考察です。
何が厳しいかは、まぁ、お読みください。

「板子一枚、下は地獄」
いろいろな言い回しは各地にあるでしょうが、漁師が海の恐ろしさを表す時によく使う言葉です。

これまで書いてきた漁師1年生のカテゴリーでは残念ながらまだ海にさえ出ていないません(汗)。
しかし、僕の転職漁師暦もすでに5年目を迎え、それなりに危険な体験もしてきました。

漁師の仕事は危険が一杯です。
冬の冷たい海に落ちれば命はありません。
夏の海だって、落ちれば助かる保障はありません。
甲板上だって、ロープや機械、危険は沢山あるのです。

それは僕が転職漁師になった年の秋、結構な時化の日。
予想外の大波が船を揺らしたとき、僕の目の前で先輩が油圧ドラムに巻かれました。
気丈にも自らドラムを逆回転しロープを解いた先輩は、甲板に倒れこんで「腕がもげた」と叫びました。
合羽のすそから血が甲板上に広がっていきました。

応急処置をして、船は全速で近くの港へ。

たった1キロ程度の距離が、どんなに遠く感じたでしょう。
僕は、その先輩の手を握り励ます事しか出来ませんでした。

骨折はしていたしかなりの重症でしたが、先輩は腕を失う事はなく、しかも脅威の回復力で仕事に復帰しました。
先輩は今も元気に一緒に働いています。

彼は漁師歴50年以上の大ベテラン。
どんなに気をつけていても事故は起きる。
漁師初年の体験としてはとても辛いものでしたが、とてもよい勉強をさせてもらったと思っています。

その年、もう一人の先輩が油圧ドラムで指先を失いました。
2年目、同じ組合の漁船が横波をもらって転覆、幸い乗組員は全員救助されました。
3年目、更に別の先輩が油圧ドラムで指先を失いました。
4年目、網入れの最中に別の漁船が居眠りで網に突っ込み、僕の乗っていた本船の10数メートル先をかすめて突っ切ってゆきました。
その時は5名が本船上で作業中。船上には網の山、それが海中の型と繋がっており、船は逃げることも出来ず、連絡もつかず。
全速で向かってくる船がどてっぱらに当たらないことを願うのみでした。
もしどてっぱらに当たっていたら…、網の重さで船はあっという間に沈没、死者も出たかもしれません。
あの恐怖は忘れられない。
そして、5年目。
夏に僕と同い年の漁師が一人で操業中に海中に転落、妻子を残して亡くなり、秋には同じ組合所属の船が一隻沈み(全員救助)ました。

凪の海ほど綺麗なものはありませんが、荒れれば海は表情が一変します。
船はそれこそ遊園地の乗り物のごとく振り回されます。
自分の立っている場所が安定しない。
これはかなり不安なものです。

年配の漁師は、昔の事故についてよく話してくれます。
船がかっぱ返った(ひっくり返った)話。
仲間を失った話。
それは時に冗談めかして話されますが、その時の恐怖は良く伝わってきます。

煙草は、そんな不安を紛らわしてくれるのかも知れない。
酒は、不安を打ち消して眠りへといざなってくれるのかも知れない。
あるいは、安全に陸に戻れた感謝や、仲間への鎮魂がこもっているかも知れない。

もはや単なるニコ中やアル中の域かもしれんけど、どこかにそんな意味が含まれているんじゃないかと思うわけです。

僕も今日も酒を飲む。
一日の安全に感謝して。
そして、単に酒が好きで(笑)。

2010/01/07 05:58 | shouei | No Comments