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アバリの話をしましたが、漁師の技術と言うのは漁師の荒々しい気性に反して細かいところがあります。
手先が器用でなくては勤まりません。
沖に出れば荒々しい先輩漁師達が、番屋の中では背中を丸めてもくもくと細かい作業をしています。
それは、なんだか可愛らしくも見えるほどです。
素早く綺麗な仕事は上手な仕事です。
浜では下手な仕事を汚い仕事と呼びます。
網をきよっても、汚いと目が揃わず醜くなります。
初心者にとっては難しい、ロープをすばやく輪にすること。基本中の基本です。
僕も最初は輪の大きさが揃わなかったり、綺麗に輪にすることができませんでした。
先輩がスッスッと素早く綺麗に輪にする様子を見て、手品でも見ている気分になったものです。
大事なのは「素早く」綺麗な事で、綺麗にするのは時間をかければ素人でも出来ます。
如何に素早く綺麗にできるようになるかが、漁師としてより上に行くためのポイントというところでしょう。
さて、こうした技術の習得も1年目に苦労したところではありますが、漁師はやはり力仕事です。
僕の雇われていた定置網では、とにかくどのパーツも大きくて重いというのが大変でした。
以前の仕事では、それこそ紙とペンより重いものを持つことは殆ど無いというのが正直なところでしたから、重いというのが本当に大変でした。
2箇所の漁場のうち、大きい漁場では、魚を獲る「胴網」という箱型の網で全長が360m近く、幅が一番広いところで80m近く、深さは一番深いところで50m近くもありました。
これをいくつかのパーツに分けて修繕し、網入れの前に組み立てるわけですが、それにしても大きい。
胴網に魚を誘導する「手網」に至っては、1500mもあったりして、これはもう果てしない感じがしたものです。
下の写真は胴網のパーツの一部ですが、パーツと呼ぶにはあまりにも大きいのがお分かりいただけると思います。
もちろん、4トントラックのクレーンなどを使って広げたりはしますが、いちいち機械を使うよりは大人数で寄ってたかって引っ張ったほうが早い場合も多く、初夏などは汗が噴出す作業です。
下の写真は、型とよばれる網を吊るすための枠になるものです。
ワイヤーに大きい玉がついているのが見えると思います。この浮球も両手で抱えるぐらい大きなものです。
これを4トントラックに載せて、ゆっくり走りながら岸壁にのして(伸ばして)ゆくのですが、これまた重たい。
修繕は、玉や玉の縛りの傷みを見つけて交換・修繕したり、ワイヤーの補修を行います。
特に僕は新人でしたから、補修や組み立てに際しては、バラしたり、運んだり、支えたりという雑用が多く、それだけに力を使う場面が多くなりました。
家に帰るとぐったりとし、立ち上がる気力さえありませんでした(なぜか食欲だけはありましたが)。
外での仕事が始まって1ヶ月もしたころ、前の職場の人と会うことがありましたが、あまりの体つきの変わりようにびっくりしたそうです。
贅肉が落ち、筋肉がついて真っ黒に日焼けしているのですから当然ですよね。
さすがにこいつらはクレーンやフォークリフトを使って運搬しますが、でかくて重いということは作業中の危険もそれだけあるということです。
また、やっぱり漁師根性というか、動かせそうだと思ったら寄ってたかって人力ということもたまにあり、「そりゃ力もつくわ!」と思ったものです。
このほかにもう一つ、僕が一番苦手な重たい仕事があるのですが、それはまた別の回にご紹介しましょう。
何にせよ、漁師はやはり力仕事。
新人だからって、「持てません!」じゃなく、「持たなきゃならない!」わけであります。