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こんばんは、酒井孝祥です。
このコラムで連載を開始して以来、本当は書きたくて仕方がないけれども、避けてきた内容があります。
それは、自分が携わっているものを除き、ある特定の公演や劇場の宣伝になる様な内容です。
関係者でもないのに、具体的な興行の営利に関わる内容を述べるのは立場違いと思うからです。
しかし、どうしても書きたいことがあり、今回はその禁を破ります。
もしかしたら一定期間経過後にこの記事を消去するかもしれません。
ニュースなどでご存知かと思いますが、今月、3年の時を経て、歌舞伎座が復活しました。
僕は、世界で一番素晴らしい場所を歌舞伎座の一幕見席だと思っていた程、旧歌舞伎座があった頃、時間があれば歌舞伎座に足を運んでいました。
ここで歌舞伎座の一幕見席についても説明しなければなりませんが、歌舞伎の上演形態の多くは、昼の部と夜の部(今月の興行もそうですが、ときには3部制)に分かれており、その1つの部が3作品前後で構成されています。
そのうちの1つの作品だけを見るための当日券オンリーの席で、歌舞伎座だけに存在します。
場所は4階にあり、舞台が見える範囲も限られてしまうのですが、ぶったまげるくらい格安な値段で歌舞伎を観ることの出来る席です。
新生歌舞伎座の杮落としの4月2日、僕はたまたま銀座の近辺で用事があり、それが19時30分頃に終わりました。
今月上演される演目の中でも、歌舞伎の代表的作品ともいうべき「勧進帳」だけは絶対に観劇したいと思っており、それが20時30分頃からの開演だということを記憶しておりました。
一幕見席は、予約なしに気軽に出向くことの出来る席ではありながらも、立見席を含めた座席数は限られるわけで、人気のある演目や襲名披露興行だったりすると、上演の開始の1時間前には大行列が出来ていて、結局満席で入れないことがあります。
まして、今日は新生歌舞伎座の記念すべき第一日目の公演です。
杮落とし初日を狙ったお客さんで溢れ返り、到底入場することは無理だろうと思っていました。
無理だろうと思いながらも、その日一番最後の演目で開演時間も遅いから、もしかしたら…と淡い期待を抱きつつ、入れなかったら入れなかったで、折角近くまで来たのだから、新しい歌舞伎座の外観を写真に撮って帰ろうくらいに思っていました。
ところが、そう思って歌舞伎座を訪れて、一幕見席の入り口に「勧進帳」の立見席が残っているという表示を見つけました。
新生歌舞伎座で一番最初に上演される「勧進帳」を見られることが分かった瞬間の感動と言ったら…
以前の歌舞伎座にはエレベーターもエスカレーターもなく、一幕見席と言えば、ご年輩の方には過酷とも言えるようなやたら急な階段で4階まで上るという試練を乗り越えて見に行くものだったのですが、新生歌舞伎座にはエレベーターがあり、一幕見席入り口から4階まで直通で上がることが出来ました。
4Fのロビーも以前とは見違えるほど立派になっていて、歌舞伎座ではない別の劇場に来ているような錯覚に陥りました。
通常だったらチケットは1Fで購入するのですが、僕が着いたときは開演時間が近かったので、4Fの受付で購入しました。
一幕見席のチケットと言えば、以前は、受付のお姉さんが鬼気迫る勢いで判子を押し、定規をつかって用紙を切断しながら発券されるものだったのですが、新しい歌舞伎座では、レシートの様に印字されたチケットに変わっていました。
場内に入ると、そこは以前とほとんど変わらない歌舞伎座でした。
ようやく、3年ぶりに歌舞伎座に来たという実感が沸きました。
ただ、以前よりも照明が明るく感じられました。
後で聞いた話ですが、一部の照明がLEDに交換されたようです。
そして、非常に衝撃的なことがありました。
以前の歌舞伎座一幕見席では、値段が安い分仕方のないことかもしれませんが、花道がほとんど見えない構造になっていました。
ところが、花道が以前とは比較にならないくらい見えるのです。
“七三”と呼ばれる、役者がポーズを決めたりすることが多い位置まではっきり見えました。
以前の様に、花道で芝居が繰り広げられているときに、全く何をやっているのか見えない状況がだいぶ軽減されるはずです。
「勧進帳」は以前の歌舞伎座の一幕見席で何度も見ている演目です。
ところが、同じ席で同じ演目を見ているにも関わらず、以前の歌舞伎座一幕見席とは見え方がだいぶ変わっていました。
以前は役者を頭の方から見下ろしているような印象だったのが、そのときに比べると、遥かに正面から見ている感が強くなり、舞台全体像が見やすくなりました。
チケット代金は以前に比べると割高になっていましたが、その分クオリティが上がったと思います。
その日は杮落とし初日ということもあってか、かなり沢山の歌舞伎通が集まったらしく、かつて聞いたことがないほどに客席から大向こうの掛け声がかかりました。
声を掛ける人が30人くらいはいたのではないでしょうか?
「勧進帳」の様なスタンダードな演目になると、どのタイミングで声を掛けるかというのが決まりきっているようで、要所要所で、「〇〇屋!」「待ってました!」「たっぷり!」という掛け声の大合唱でした。
たまに見事なほどハモることもあって、本当に歌舞伎っていうのは客席も一緒に作っている作品だと実感します。
ラストの、弁慶の花道の飛び六方での引っ込みのとき、「男前!」と声を掛けた人がいて、その掛け声で客席に笑いが起こったりもしました。
「勧進帳」は今月28日まで、毎日20時30分頃から上演されます。
チケットが完売してしまえばそれまでですが、僕が初日の20時頃に行ってもまだチケットがあったくらいなので、意外といけるかもしれません。
「勧進帳」はもちろん、昼間上演される「白浪五人男」も初心が楽しむのにぴったりな演目です。
歌舞伎を見たことがないような人には、この機会に是非見ていただきたいです。
チケット代も、小劇場で観劇するより安いくらいですよ。
次回は、「忌み言葉って…?」(ブライダル)をテーマにしたコラムをお届けします。