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2013/04/09

こんばんは、酒井孝祥です。

舞台公演において、素晴らしい脚本と演出のもと、最高の役者が集まって、衣裳や舞台装置に莫大な費用がかけられ、稽古時間も十二分に取れたとします。

しかし、もしもその舞台に一人
もお客様が入らなかったら、全く何の意味もなしません。
舞台芸術は、その空間を共有するお客様が存在して、初めて成立します。

お客様には、わざわざ予定を空けていただいて、劇場まで足を運んでいただいて、お金まで払っていただかなければなりません。
そこまでのことをしてもらうのは、そう簡単なことではありません。

この日本で行われる様々な舞台公演の大部分は、その舞台の出演者が個人的な知人にチケットを手売りし、お客として招くことによって成立していると言っても過言ではないでしょう。

小劇場の演劇などでは、役者それぞれにチケットノルマが割り当てられ、ノルマ枚数売れなかった分の料金をその役者が金銭的に負担することによって、興行が極端な大赤字になることを防いでいます。

いわゆる商業演劇と呼ばれる、マスコミでも大々的に宣伝されるような大規模な興行ですら、出演者が手売りするチケットが頼りにされることがあるようで、主役級の役者は一人で何百枚も売りますし、出演者オーディションでは、まず最初にチケットを何枚売ることが出来るかを質問され、その枚数によって合否が分かれたり、出番の多さが変わったりすることもあるようです。

そんなわけで、役者には、素晴らしいパフォーマンスを提供するだけではなく、チケット販売の営業力をも求められるケースが多いかと思います。

劇団によっては、皆が集まっている中で、主催者が一人一人のチケット売上枚数を読み上げたり、あるいは役者の方で自ら売上枚数を申告し、枚数の少ない人に対しては、降板勧告がなされたり、チケットを販売するために、その日の稽古を早退させられたりすることもあります。

知人にチケットを販売するにあたって、まず大前提となるのは、その公演の情報を案内することです。
どんなに面白い内容の作品であったとしたも、それがいつどこで行われ、料金がいくらなのか等の情報伝達がなされなければ、買う方だって買いようがありません。

公演の案内チラシを手渡し出来ればそれにこしたことはありませんが、出来なければDMとして郵送する方法があります。

昨今では、わざわざ郵送しなくとも、そういった公演案内情報をEメールで多数の知人に送信することは容易であり、たとえEメールアドレスが分からなかったとしても、FacebookやmixiなどSNSを利用することも出来ます。

舞台活動に携わっている限り、公演の度に、そういった様々な方法を駆使して、知人に公演情報を伝達しなければなりません。
同時に、知人から公演案内のDMを受け取ることも多々あります。
郵送であれEメールであれ、普通に月に4~5通ほどは届くでしょうか。

沢山のDMを受けていると、その内容や送信方法によって、相手の公演に対する思い入れや、顧客の扱い方が見えてきて、自身が送るときの参照にもなります。

まず一番に思うのは、相手が自分の住所を知らない場合はともかくとして、郵送でDMが届くのと、Eメールで届くのとでは、郵送で届く方が、つまりは、一手間をかけて、郵送料をかけて送られてくる方が、その公演に対する思い入れを感じます。

もちろん、紙媒体のものを送ったら相手にとって邪魔になるかもしれないし、結果的にはゴミになって迷惑をかけてしまうから、敢えてEメールにするという考え方もあるかとは思います。

そして、EメールならEメールで、一斉送信で送られてくるものと、個別で一通一通送られてくるものとでは、やはり個別で送られてくる方が、丁寧さを感じます。
以前、僕が一斉送信で案内を送った際に、「一斉送信のご案内には欠礼させていただいております。」という返信が届いて、成程と思ったことがあります。

僕がDMを受け取って、最も酷いと感じる内容は、「返事を下さい」などと返信を強要するかの様な文面です。

僕自身、案内を送って、何らかの返事をいただけると凄く嬉しいですし、返事がないと不安になります。
だからといって、相手に返事を強要してしまったら、それはもはや、顧客に商品をお薦めするDMではなく、まるで販売する側が顧客よりも上位に立つような態度です。

そういうDMを送ってくる人に限って、こちらから送ったときには何の返信もないことが多く、不思議でたまりません。

なかには、返事をよこせというからわざわざ返信したのにも関わらず、その返信に対して何のリアクションもしない人もいて、そうなると、まるで侮辱されたかの様な気分です。

僕の場合は、相手が返事をよこせという態度でなかったにしても、基本的に案内をいただけば、行けないなら行けないで「ごめんなさい、今回都合がつかなくて見に行けません。」くらいのことは、必ず(たまに出しそびれてしまうこともありますが…)返信する様にしています。

その返信に対して、「わざわざ連絡ありがとうございます。」くらいの反応が何もない人の舞台は、正直、今後見に行きたくありません。
顧客が来場可否の情報を提供したことに感謝の意を示さない人が、お客を楽しませる舞台を創れるとは思えないからです。

そして、DMを送るにあたって大きく神経を使うことの1つが、それを送付する時期です。

まず、送る相手が役者さんなどだった場合、送る時期に相手が本番直前や本番真っ最中ではないかを確認します。
自分の舞台でいっぱいいっぱいのタイミングで、人の舞台の案内をもらっても、困ってしまいます。

あまり早く送り過ぎても、本番までの間に忘れ去られるかもしれないし、直前過ぎても都合をつけるのが難しくなってしまう。
だとしたら、早めの段階と直前の段階で2回の案内を送りたいものですが、その間の時期が狭まってしまうと、しつこい印象を与えてしまいます。

DM1つ取っても、その人の舞台に対する思い入れと、顧客に対する気配りの姿勢が見えてきます。

次回は、「新生歌舞伎座初日の衝撃」(古典芸能)をテーマにしたコラムをお届けします。

2013/04/09 01:21 | sakai | No Comments