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前回の対談から随分と間が空きましたが、演奏家対談シリーズ第2弾は、大学の後輩でもありピアニストとしてフランスに留学中の武田梢さんをお迎えしました。対談は留学直前に行われ、期待と不安に胸いっぱいの若き才能の胸の内に迫ってみました。
~楽器を始めたきっかけ~
鷲見(以下S):まずは楽器を始めたきっかけからいきましょうか。
武田(以下T):はい、よろしくお願い致します。
母がクラシック音楽を聴くのが好きで、家ではいつもクラシック音楽が流れていました。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」が大好きで、いつか弾いてみたいと強く憧れていたことを鮮明に覚えています。3歳の時、ピアニストの方が月光を弾いている番組を見て、この曲を弾いてみたい。ピアノを習いたい。と自分から両親にお願いしました。
また、日本音楽コンクールの覇者であり、今や世界を舞台にご活躍中のピアニスト、佐藤卓史さんが同郷で小中学校と同じだったのですが、幼い頃から親しくして頃から親しくして頂いており、私はいつも卓史さんの演奏に憧れ、尊敬してきました。身近なところに素晴らしいピアニストがいて下さったため、コンクールに出た高校から親元を離れ音高に進学したのは、ごく自然な流れでした。
S:3歳で!早いね~。ピアノはもともと家にあったの?
T:なかったので買ってもらったのですが、最初はアップライトピアノでした。
S:そうだったんだ。入門編だね。
T:教わるのも最初は通っていた幼稚園の近くの、小さなこどもに教えている先生でした。
S:基礎からやった訳だ。
T:そうですね、でも音符が大きい簡単な楽譜を渡されても練習する気にならなくて、自分の弾きたい曲ばかり弾いていました。それこそ月光をハ長調に直して弾いたりしていました。笑
~コンクールについて~
S:で、新しい先生にはいつから?
T:小学校に入ってから今でも秋田に帰ると教わっている若松マキ先生に師事するようになりました。
S:コンクール受け始めたのは小学校から?
T:小学校1年生から受けるようになって、4年生の時、学生のためのショパンコンクールで1位を頂き、学生コンクールでも入選しました。でも、小学校高学年になるにつれ、コンクールが嫌になってしまった時期もありました。
S:なんで?
T:ピアノは好きだったんですけど、コンクールのプレッシャーというか…
S:あ~なるほど。小さいのに変に背負い込んじゃったんだね。
T:音楽が、ピアノが大好きなはずなのに、コンクールのためにピアノ弾いてるのかなって悩んでしまって…。
だけど、小学校6年生の時、ナウム・シュタルクマン氏のコンサートで、ピアノをはじめたきっかけとなったベートーヴェンの「月光」を聞き、やっぱり私はピアノが好きだ、と再確認できたと同時に、音楽を追求するために弾いていこうと思えるようになりました。
巨匠シュタルクマン氏の奏でる月光は、ベートーヴェンとシュタルクマン氏の人生を感じたほど、悲しく、優しく、静かでありながら強く美しい演奏で、強い感動と衝撃を受けました。会場にいたほとんどの人が涙を流して聞いていました・・・あの日、舞台に立って演奏することの意味がわかった気がします。
いつか、作曲家と対話し、自分の内に向かい、音楽に向かい、そして聞く人々の心に訴える、あのような演奏ができるようになりたいと強く思うようになりました。
でもホント、子供ってあやうい生き物ですよね。今みたいに自我が出来ていれば、コンクールも自分のためになるって思えるのに。
S:個人的には政治的要素も大きいし、音楽に点数つけるコンクールの存在自体に反対だからなあ、何ともコメントが難しいところだね。そこまで考えられる先生との出会いが大事になるね。
~一人暮らし~
S:東京に出てきたのはいつ?
T:レッスンに通うようになったのは中学2年生です。
S:一人暮らしは中学3年から?
T:高校1年生からです。
S:東京音楽大学は附属高校から?
T:はい。
S:東京に来て違うなあと思ったことは?
T:落ち込んだ時や悲しい時に、実家にいた頃はおいしいご飯が出てきて、あったかいお風呂があって、家族とも話せて気が紛れていたのに、一人暮らしだと家に帰って来ても冬は寒いし、疲れていてもご飯は作らないといけないし、何だかさみしかったです。笑
S:ははは。
T:東京に来て家族のありがたみがわかりました。
S:良い言葉だ!! 笑
S:一人暮らしだと、料理は外食?
T:自炊ですよー♪
S:節約生活?そうなんだ~。料理得意?
T:そうですね、高校生から一人暮らしをしていると一通りは作れるようになります。和食も中華もイタリアンもフレンチも。
S:一番得意なのは?
T:うーん、なんだろう? カルボナーラ、ハンバーグ…和食だと肉じゃがや出し巻き卵、中華だと酢豚、チンジャオロース…でも、冷蔵庫にあるものでパパッと作るのが一番得意かも。笑。あとブラウニーとプリンは自分でも美味しいと思います。笑
~好きな作曲家、曲~
S:好きな作曲家と好きな曲は?
T:沢山いて選べないですよね…。ショパンもリストもシューマンもブラームスもラヴェルもバッハもモーツァルトもベートーヴェンも好き。ラフマニノフ、シマノフスキ、プロコフィエフなど、雪国の人というか、雪が見える曲を書く人も好きです。
S:俺の感覚からいうとシベリウスなんかもそうかな?
T:そうですね!そうそう。
S:この前シベリウスの曲やったんだけど、指揮者が「シベリウスは一見退屈に感じるけど、ほんの一瞬、たまに素敵なところがあってね、そこが彼の良いところだと思います」って言ってた 笑
T:あはは、シベリウス天国で泣いていますね。笑
S:好きな曲は?
T:ものすごく沢山あってあげきれないほどですが、それこそシベリウスのヴァイオリンコンチェルトは大好きですね。ヴァイオリンコンチェルトといえばドヴォルザークのロマンスf mollもすごく好きです。もちろんピアノ曲にも好きな曲が山ほどあって、よく聞きますけど、ヴァイオリンやチェロ、交響曲も多いかな。ピアノは音域が広いですし、いろんな楽器の音を出していけるようになりたいです。
S:感受性豊かっぽいよね?
T:よく言われます。笑。コンサートに行っても絵を見ても涙が止まらなくなりますし、うれしくても悲しくても感動してもすぐ涙が出ますし…。ふとした瞬間の中に色々と感じる気持ちや見える景色、色彩や曲もありますね。
S:嫌いな作曲家は?
T:特にいないです。ただ、現代曲はちょっと苦手かな・・・
S:表立って言わないけど多くの演奏家がそうだとは思うよね。良い曲もたまにあるんだけど。
作品やメロディーが出きっちゃってる感があって、作曲家が可哀想な時代だとは思うよね。
T:そうですよね。
S:話が危険な方向にいきつつあるので、この話題はこの辺にしときましょう。
~練習~
S:練習は好きですか?
T:好きですよ、ピアノを弾くことが好きなので。ちゃんと練習する時間と、好きな曲を自分のために趣味で弾く時間とあります。
趣味で弾く曲はシューマンのトロイメライやラフマニノフのヴォカリーズ、エレジー、シベリウスの樅の木、グリーグの風の精、ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ、フォーレのパヴァーヌ、ショパンのノクターンやプレリュード、マズルカなど、譜面はそんなに難しくなくても、心に染みわたるような小品が好きですね。
S:俺は練習を苦にしなくなったの最近だよ 苦笑
T:私は1日弾いていても平気です。涙が自然と流れる感覚というか、言葉にならない気持ちを音に託すというか…。特に悲しい時ほどピアノ弾きますね。そんな時に限ってピアノってすごく優しい音がしたりするものですよね。
S:おお、カッコイイ 笑
T:ピアノを弾くことと泣くことが似ているなぁと思うのは、言葉にならない気持ちとか想いとか、言葉に表現できない悲しみとか喜びが、泣きたいわけじゃなくても涙になって自然にこぼれてしまうように、言葉にならない気持ちとか心とか音に重ねてこぼれた方が自然な気がするから…。
S:先日のリサイタルはどんな感じだったの?
T:今回はショパンとラフマニノフがメインにプログラムを組みました。ピアノのための作品を数多く残し、また優れたピアニストであったショパンとラフマニノフは、多くのピアニストにとって特別な作曲家であると思います。
ショパンが祖国ポーランドを離れ、パリに出たのは22歳の時。また彼がパリで初のリサイタルを行ったのが22歳ということから、今22歳である私の心を重ねて奏でられるよう、ショパンが22歳の時の作品である「別れの曲」を取り入れて、彼らしい詩のような音楽を選曲しました。
現存する録音も数多くあるラフマニノフは、ピアニストとしても敬愛している作曲家です。ラフマニノフは22歳で交響曲1番の初演に失敗し、極度の神経衰弱に陥りますが、それを乗り越え数々の傑作を残しています。
ラフマニノフ最後のピアノ独奏曲となった“コレルリの主題による変奏曲”を中心に思い入れのある小品を組み合わせ、第1部では、ショパンとラフマニノフという私にとって特別な作曲家に焦点をあてた、また、ピアノという楽器の多角的な魅力を楽しんで頂けるようなプログラムになったのではないかなと思います。
第2部では同い年のヴァイオリニスト、鍵冨弦太郎くんをゲストに迎え、フランス系ヴァイオリンソナタの最高傑作と言われているフランクの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」を演奏しました。
S:作曲家と自分を重ね合わせたようなプログラミングだね?
T:そうですね。
S:22歳、節目と捉えてる訳ですね。リサイタル前に誰かの録音を参考にしたりする?それとも自分でイメージを作るまでは聴かない?
T:最初は楽譜だけですね、初見が得意なので、まずサラッと弾いてみます。初めて弾いた時に自分が感じた感覚はとても大切だと思います。参考というか、ショパンはルービンシュタインの演奏が本当に好きなので、日頃からよく聞いています。
(続きは後編へ・・・・)
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◆武田梢 プロフィール◆
武田 梢(たけだ・こずえ)/ピアノ
1986年秋田県秋田市に生まれる
秋田大学教育文化学部附属小学校、秋田大学教育文化学部附属中学校卒業
ABS秋田放送より取材を受け、“特集:シリーズ旅立ち~15歳の決断・夢はピアニスト”が放映される
2002年東京音楽大学付属高等学校にピアノ演奏家コースとして入学
同校在学中、実技成績優秀により、同校出身のピアニスト小川典子氏より特別レッスンを受講(高2~高3)
並びに、モスクワ音楽院教授セルゲイツ・ドレンスキー氏より公開レッスンを推奨生として受講
2005年東京音楽大学にピアノ演奏家コースとして入学
同校在学中、フランス国立音楽院教授ジャック・ルヴィエ氏の国際音楽セミナーを推奨生として受講並びに修了コンサート出演
特にS.ラフマニノフ、K.シマノフスキに於いて高い評価を得る
これまでに全日本学生音楽コンクール東京大会入選、ピティナピアノコンペティションソロ部門B級C級D級E級・デュオ部門初級中級にて優秀賞受賞、全日本ジュニアクラシック音楽コンクール入賞、秋田市民音楽コンクール第一位並びに文化団体連盟賞、秋田県青少年音楽コンクール最優秀並びにグランプリ受賞(大会初)日本ショパン協会主催、青少年のためのショパンコンクール金賞並びにカワイ奨励賞受賞(史上最年少)アジアクラシック音楽コンクール新人賞受賞
2009年秋よりフランス、パリ・エコール・ノルマル音楽院ディプロマコース6eme Division≪Execution≫(シジエム・ディヴィジオン≪エグゼキュシオン≫=最上級演奏ディプロマ)へ留学、ジャン=マルク・ルイサダ氏のもとで研鑽を積んでいる
武田梢BLOG
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