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2013年がすごく早く過ぎて行くような感覚です。
もちろんそれは来る9月に10年振りとなる
個展を控えているからということもあるでしょう。
そしてその用意が、自分が思っているよりやや遅いと感じることからかもしれません。
今回、この個展が決まって、しかもWALDという福岡でも選ばれた作家しか
展示できない、魅力的な空間を与えてもらえたことは大変な栄誉です。
そしてそこへ作品を展開できるような被写体の方々に巡り会えたこと
またその帰結した先のギャラリーがWALDであったことも、
決して偶然とは言えないような気がします。
今回は「キーアート」ということについて書こうと思っています。
先の個展に比べ、ネット環境の変化や公開の場が広がったこともあり
ずいぶんと速度早めのキーアート公開になりました。
僕の作品構成において、まず必ずと言っていいほどあるものが
この「キーアート」です。それはポストカードに使う一枚がそうでもあるし
暗室でまず最初にプリントするのがその一枚だったりと
意識していたり無意識のうちだったりと、
文字通りキーとなる、そんな重きを成す作品は必ずあります。
今回、個展へ向けた新作を創るにあたって、セレクトの対象になったカットは
だいたい2008〜2012年までに僕が撮影してきたもの全てが対象で、
それは膨大な数になります。
そうして作品の取捨選択をしていく中で、これはどうしても外せない一点とか
一つの芯として連なるものの骨子としてのもの、そしてその肉付けとなる
作品たち…そんな調子で展示へ向けた作品構成の向き、
伝えたいなにか..が徐々に姿を見せ始めます。
10年ほど前の、僕の個展向けての作品制作と比べると
ずいぶんと違うことに気付きます。
今までがむしろ両刃の剣…威力はあるが作家も被写体も、観る側さえ
傷つけかねない激しい一点をキーとして選ぶ傾向にあったことに対し
今回掲載している2点、既にいろいろな場所で公開していますが
その2点のキーアートが、今まで同様不安定で脆さも漂わせながらも
どこかとても柔らかなものである点こそが前者との決定的な違いです。
それは撮った時点、またデータを取り込んだ時点で決まったものでもなく
作品を構成していく中で、自然と僕の中で決まって行った2点でもあります。
何より興味深いのは、このキーアートNO.1とNO.2の撮影期間には
2年の時間差があります。その意味もまた大きいものです。
そして僕は、今回の個展で大きく意味を成すであろう
この2点が大好きで…とても気に入っています。
「キーアート」にこの作品を選ぶ…そのことは僕自身はもちろん、
被写体さんにとっても、また僕の作品を昔から知る、
ごく少数の人たちにとっても意外なものだったかもしれません。
けれども結果としてセレクトした作品が
柔和ささえ感じる2点だったことこそが逆に
もっとも凄絶な一面を持つということもまた大きな意味を持ちます。
ただいま僕は9月の個展へ向けて「図録」を制作しています。
一個展のみの中で図録までを創るということは今まで無かった試みです。
まだこの時期にネタバレは控えたいので中身について多くは言えませんが…
けれどやっぱり表紙とラストに来るにはこの2点がとてもフィットしているように感じます。
そして図録中の、今回の個展に際してのおおまかなキャプション(仮)を
僕はこう書いています。
『被写体との不安定で曖昧な距離感を自在に行き来しながら撮られた作品たち。
冷たい黒の質感は不穏な気配や暴力性さえ内包しながら、
やがてその要たる距離感さえも曖昧になる。
そこへ作家自身深入りしていく課程を、危うさを伴いながら描き出している.』
キャプションについてはまだ仮のものですがこうして一冊の図録にしたとき
やっぱりこの2点はとてもチカラを持った、今回の作品群の柱となっています。
そして数十点から構成された「物語」はやはり今までの僕の作品同様に
絶望的で切なく痛いもので、心や想いそのものに厳しく迫ったものであることは
変わらないし、どう変えようもない…いやむしろ最も厳しい線上で撮っていると
言っても良いくらいの作品群。。。
そういう構成の中へこの2作品を、その扉として選べるようになった自分がいること..
そこに10年もの間展示発表というシーンから離れていた僕を
ここまで持って来てくれた人たちへの気持ちがあるのだと思っています。
だから、今までには必要なかった、予算を割く余裕もない中ですが
あえて「図録」を残すべき個展だと感じました。
それは今までもそうだったかもしれない…人の想いというものに
触れながら、時に突き刺しながら…だけど僕はたぶん守られていた
恋人、友人たち、職場…また周囲にいてもらえたたくさんの魅力ある人たち…
そしてその空気の中で、痛みを、切なさをと作品創りをしてきたけれど
そういう場所で作品を創る、展示をするということは
本来ならもっと厳しい場所だったはずです。
だけどいつに間にかそんな周囲に寄りかかりながら
作品創りをしていたのではないかとも思うのです。
だからそれを失ったとき…これほどの時間と道程を辿らなければ
行けなかった場所なのだということをあらためて知ることになりました…
作品を創る、構成して空間を創ることが
どれだけの努力を必要とするものなのかということも。。。
気持ちを抑えきれず個展期日よりだいぶ先行して公開した
この2点の「キーアート」が、よりたくさんの人へなにかを
届けられたら…そして本展示へと繋がり得たなら…
今度こそ通り過ぎていくものたちを少しでもつかまえられるような
そんな個展になると思っています。
最後に図録試作品からもう一枚…