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2013/01/29

こんばんは、酒井孝祥です。

たとえ、それがどんなに出来の悪い内容の公演であったとしても、劇団の主催者、関係者は、少なくとも表向きには、その公演のことを高評価します。
営業上、ごく当たり前のことです。
自分の劇団の公演を悪く言うなんて、自殺行為もいいとことです。

それに、お客様の中には、その公演を楽しむことが出来た人だって、いるかもしれません。
極端な話、目の前で役者が動いているというライブ感覚だけでなんとなく高揚して、作品の内容如何に関わらず、楽しむことが出来たお客様だっているかもしれません。
そのお客様が、劇団関係者が自分達の作品を批判しているのを耳にしてしまったら、折角楽しむことの出来た気持ちに水をさすことになります。

関係者である以上、仮にとんでもなくつまらない作品であったとしても、そのことを口外すべきではありません。
自分達自身で内容が良くないと自覚し、その事実を公表していながらも、お金を取ってお客様を呼ぶなんてことがあったら、失礼もいいところです。

しかしながら、あからさまにつまらない内容の公演を観て、その後で主催者が「今回の公演は、各方面から多大なご評価をいただき、大成功に終わりました。」などと、過大とも言えるほどに評価しているのを聞くと、複雑な気持ちになります。

まず思うのは、主催者は本気で言っているのか…?建前で仕方が無く言っているのか…?ということです。

例えば、「今回の公演も、皆様の暖かいご声援の中、無事に幕を降ろすことが出来ました。今後とも、より良い作品を作り上げていくよう精進してまいります。」などと、言い回しとして、決して公演内容を非難するようなニュアンスが含まれず、かといって、大絶賛しているわけでもなく、次回以降への期待を促すようなコメントであれば、ああ、本心では良くなかったと思っているんだ…とうかがい知ることが出来ます。

そうであるならば、今回の反省を踏まえて、次は良い作品を作ろうという意志が見えるから、次の公演に期待することが出来ます。

しかし、そんな様子も見られずに、頭ごなしの大評価であったとします。
それが建前上、今後の営業のことを考慮した上で言っているのだとしたら、それはそれでありかもしれません。
ですが、もし心の底からそう思って言っているのだとしたら、主催者の感性がおかしいのか、あるいは観ている自分の方の感性がおかしいのかということになります。
そして、どちらの意図で言っているのか、まさか主催者本人に尋ねるわけにもいきませんから、残念なことに、明確に判断する方法はないのです。

本気で言っているのだとしたら、今後、その劇団の公演を観に行くこと自体が不安になってしまいます。

劇団関係者が自分の劇団の公演を良く言うのは当然ですが、それは、観にいったお客様にだって同様なことが言える場合があります。
お友達が出ているから観に言った公演だとしたら、面と向かってお友達に悪いことを言えはしません。
マスコミ関係やスポンサー関係の人などだって、わざわざその劇団との関係性を悪くするようなことは、なかなか言えないと思います。

そうやって、虚構の評価が一人歩きしてしまい、どうしようもなくつまらない内容の作品が、過大に評価され、それを観たことがない人に対してでさえ、良作品としてのネームバリューを与えてしまうことだってあると思います。

そう考えると、何を基準に作品の良し悪しを考えればいいのか分からなくなってしまいます。
たとえば、個人のサイトで観劇感想をアップしている、コアな演劇ファンの意見を尊重するという方法だってあるかと思います。
でもそれだって、個人の主観で書いていることですから、その人の感じ方と自分の感じ方が必ずしも一致するわけではありません。

そう考えていくと、結論として辿り着くのは、観にいった自分が楽しめたかどうかを真実とし、周囲の意見は気にしないということでしょうね。
虚構かもしれない評価に踊らされる必要はなく、お客として観にいった公演は、その劇団のものではなく、劇評家のものでもなく、観にいった自分自身のものです。
1つの公演を100人のお客様が観たとしたら、100種類の演劇がその場に生じることになるでしょう。

次回は、「女形の魅力」(古典芸能)をテーマにしたコラムをお届けします。

2013/01/29 06:01 | sakai | No Comments