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2011/01/22

こんにちは。中世文学担当のタモンです。 

今回は、「獅子と牡丹」がテーマです。 

「獅子に牡丹」といえば、堂々とした獅子と華麗な牡丹をあしらった図柄を指します。 また、「取り合わせの良いこと」の例えとしても用いられています。あるいは縁起の良さを表します。同様の慣用句として、他に「梅に鶯」「紅葉に鹿」「竹に虎」といったものがあります。これらの図柄は花札などに見られますので、映画「サマーウォーズ」を見られた方なら、クライマックスの「コイコイ」(花札)対決!を思い出されるかもしれません(笑) 

花札だけではなく、「獅子に牡丹」の図柄は、Tシャツやバッグ、バンダナといった身近なものに用いられているのを見かけます。刺青にも用いますので、ヤクザ映画で見られることも。 

ぶっちゃけて言いますと、今回、図柄をテーマに話すので、絵などをアップさせたいと思いましたが、上手くいかず(泣)(×_× ;) 。っていうかやり方がわからない。できたら改めてアップしようと思います。…なおや諒に聞いてみよう(__;)(¨ ;)  

獅子、といってもライオンではありません。霊獣、つまり想像上の動物です。獅子は、文殊菩薩(知恵を司る仏さま)の乗る動物としてイメージされていたんです。古代ペルシャでは、太陽や王の力を象徴しました。魔除けの動物としても知られています。日本では、渦巻き模様の毛で覆われた唐獅子の姿が浸透しました。神社の社前に、一対の狛犬(こまいぬ)が置かれていることがよくあります。獅子と狛犬はまま混同されましたので、アニメ「おじゃる丸」のオコリン坊・ニコリン坊は獅子の一種といえます。 

牡丹は、「百花の王」とも称されている華やかな花です。その絢爛さから、中国では富貴の象徴とされ愛されてきました。『枕草子』に、「台の前に植ゑられたりける牡丹(ぼうた)などのをかしきこと」とあることから、平安時代には栽培されていたと考えられます。 

獅子牡丹の文様は奈良時代から見られます。正倉院(しょうそういん・奈良時代の文化財を保管する宝庫)蔵の「柄香炉」には、牡丹唐草と獅子が結びついた文様が見られます。 

ただし、現代に連なる「獅子牡丹文様」というと、日本独自におこったようです。 

日本の場合、調べた限りで一番古そうな記録は、鎌倉時代前期です。このあたりで獅子牡丹文様が定着した(生まれた?)と考えられます。たとえば、春日大社四社神殿間板壁には、嘉禎2年(1236年)には、獅子牡丹図が描かれていたという記録が残っています(『中臣祐定記』)。ちょっと後になると、延慶2年(1309年)。高階隆兼筆『春日権現記絵』(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)巻三第八紙の画中画です。知足院関白邸内に「牡丹に獅子図」が襖絵として描かれています。……もっとちゃんと調べれば、さらに古い記録がでてくるかも。。。という一抹の不安がありますが、とりあえずということで。(注・「鳥獣戯画絵巻」(12世紀半ば完成?)や興福寺東金堂の維摩居士像台座の装飾(1196年、定慶作)は、獅子と牡丹(?)が描かれていますが、一体となった文様ではないのでカウントしていません) 

鎌倉時代には、獅子に牡丹の図柄は、武具にもよく用いられるようになりました。甲冑、馬具、弦などです。勇猛なイメージの獅子は武将にウケましたし、華やかな牡丹は甲冑を彩るのに適した柄だったのでしょう。正平4年(1351年)の年記が入った「正平革」(別名・藻獅子韋)には、獅子牡丹文様が施されています。 

獅子に牡丹の取り合わせは、「獅子身中の虫を喰らう」のことわざから来ているという説明がなされることがあります。意味は、「獅子の体内にいる虫が、その寄っている獅子の肉を食って、ついには倒してしまうの意。仏徒でありながら仏教に害をなすことのたとえ。転じて、恩を受けた者に仇(あだ)で報いることのたとえ」です(『日本国語大辞典』)。この虫を抑えるには、牡丹の夜露を飲むしかないそうですが、典拠はなんだろう……?。調査不足かもしれません。わかったらご報告したいです。この慣用句自体は『吾妻鏡』にみられますが、牡丹に関する記述はないですね。 

見通しだけ述べておくと、↑のようなことわざが発生源と考えるよりも、奈良時代から人々に親しまれてきた獅子・牡丹文様が鎌倉時代前後で一体の文様となったと考えるほうが妥当かと思います。その際、なぜ2つが結びついたかという理由は、百獣の王・獅子と百花の王・牡丹が結びつけて吉祥の象徴を表そうとしたから、というのがオーソドックスな説明になりますが、ほんとうのところは今も謎のままです。 

むしろ、私が着目したいのは『碧巌録』(へきがんろく・鎌倉時代前期には日本に伝わった禅の仏書)第四第三十九則にある、「金毛獅子」「花薬欄」といった言葉です。長くなったので、これはこのぐらいで。 

なぜ、今回、獅子に牡丹のお話をしたかというと、能「石橋(しゃっきょう)」についてお話したかったからです。「石橋」は、牡丹咲き乱れるなかで獅子が舞うという作品です。今回の切り口は、図柄としての獅子と牡丹でしたが、次回、いよいよ本題。芸能としての獅子と牡丹です。獅子を語るうえで重要なのは、獅子舞という芸能がキーポイントになります。それでは。

2011/01/22 09:02 | rakko | No Comments