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2012/12/31

こんばんは、酒井孝祥です。

今年もラスト1日を切りました。
ご縁があって、11月よりジャンクステージでコラムを連載させていただくことになり、古典芸能に関することを調べ直したり、昔買ったCDを聴き返したりして、かえって自分自身が勉強し直しております。
そういう意味でも、ジャンクステージに出会えたことは、もしかしたら今年一番の収穫だったかもしれません。

さて、当初コラム連載のお話をいただいたとき、役者として活動をしたり、養成所で勉強していながらも、古典芸能に全く触れたことのない人をメインターゲットに、日本の古典芸能を知らないことがあまりにも勿体無いと気が付かせ、それに興味を持つ入り口になるようなコンセプトで連載をしようと考えました。
そういう目的で、役者さんに最もお勧めする古典芸能作品は、なんといっても落語「淀五郎」です。
役者にとってバイブルの様な作品だと言えると思います。
CDでも出ていますから、CDショップの落語コーナーで購入出来ますし、図書館で借りることも出来ると思います。

ただ、非常にお勧めな作品ではありながらも、大きな問題があります。
それは、「仮名手本忠臣蔵」を知らないと作品の意味が理解出来ないことです。
落語の中には、「忠臣蔵」ものの作品が沢山あって、「仮名手本忠臣蔵」の中に出てくる台詞がネタになっていたり、その場面のパロディ的な内容だったりします。
「仮名手本忠臣蔵」の内容を知っていて当たり前という前提のもので話されます。

この「淀五郎」という作品においては、「仮名手本忠臣蔵」の三段目と四段目がネタになっています(主に四段目です)。
三段目は、以前のコラム(http://www.junkstage.com/sakai/?p=94)で述べた様に、高師直から散々に侮辱された塩治判官が、怒りの余りに殿中で刀を抜いて師直に切りかかるシーンで、四段目は、その罪を背負った判官が切腹するシーンです。
切腹の作法を再現した様なシーンで、かなりの長丁場です。

判官がこれからまさに腹を切って死のうとするところなのですが、家老である大星由良助がまだその場に到着しない。
せめて由良助に想いを伝えてから死にたいと、ぎりぎりまで待ってみるものの、現れる気配がないため、断念して腹に刀を突き立てます。
それと同時に由良助が到着し、判官は腹に刀が入ったまま「由良助か…待ちかねた…」と言い、自分の想いを由良助に伝えてから息絶えます。

落語の「淀五郎」では、判官役を演じる役者が病気になってしまったため、若手俳優の淀五郎が急遽代役として、大役である判官を演じることになります。
しかし、切腹シーンの芝居があまりにも下手なので、腹に刀を突き立てても、由良助役のベテラン俳優が出て来てくれない。
終演後に何故出てきてくれなかったのか尋ねると、“判官が腹を切っていないで淀五郎が腹を切っている。由良助は判官のところに行くのであって、淀五郎のところに行くのではない。”などと手厳しいことを言われます。

落胆した淀五郎は別のベテラン俳優から助言を受けて、また舞台に上がることになるのですが、この落語は、俳優としての真髄を描いたような作品です。
上記の続きは、是非とも寄席かCD屋か図書館に足を運んだ上で、体感していただきたいと思います。

次回のコラムのテーマは、年が明けてから考えようと思います。
2ヶ月足らずではありましたが、今年はお世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。

2012/12/31 03:13 | sakai | No Comments