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最近、ビョークと仕事をしました。そう、あのビョークです!アイスランド出身のアーティストの。みなさんにとってはちょっと唐突なお話かもしれませんが、そのストーリーの一端をここにご紹介しようと思います。
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わたしの本業は匂いのアーティストですが、ライフワークとして、日本を海外に紹介するというテーマがあります。それは高校時代にアメリカに留学したときから始まっている、私の根源的な興味なのだと思います。
20代後半にオランダに移住してからは、アイデンティティ・クライシスがあったのか、自分がオランダに適応する事ばかりに意識がいっていました。しかし、どんなにがんばっても私は日本人であり、オランダ人にはなれない。それなら逆に日本の代表選手として、「日本と外をつなぐ架け橋となろう」と意識しはじめました。
匂いのアートでは逆に「日本」という武器を多用しすぎると世界に通用するアーティストにはなれないので、ほどほどにしていますけどね (^^)
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で、匂いのアートの方が軌道に乗り始めたころ、ある友人(日本人)の作品に出会いました。いわゆるスマートフォンのガジェットなのですが、スマートフォンに載せると、映像が立体的に見えるというビューアーです。3枚のハーフミラーを使ってて、例えるとすれば「背景が森、その手前にオオカミ、さらにその手前に赤ずきんちゃん」みたいなシンプルな立体感なんですが、それが箱庭的でとても可愛いんです。
このビューア自体もひとつの作品でありつつ、多くの作家にとって新たな創造のプラットフォームとなるのでは、とすぐにカンが働きました。そこで、私の企画とキュレーションで展覧会をやりました。2011年、あのロッテルダム国際映画祭の晴れ舞台です。展覧会名は Palm Top Theater(手のひらシアター) となり、この「箱」を使って、私の友人達にあらゆるコンテンツを作ってもらったのです。
http://www.v2.nl/events/palm-top-theater
この反響がとても良く、製品化が決定。iPhoneとiTunesストアをプラットフォームと決め、「誰もが作品を観れて、作れる」ような、オープンな仕組みをオランダ・チームと作り始めました。その発売開始が間もなくです。(詳細は最後に記します)
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このデバイスは、コンテンツが無ければ、役に立たないタダの箱です。それを生かすには、良質なコンテンツが必要です。せっかくここまで育ててきたプロジェクトなのだから、なんとかいい形で実現させたい。結果を出したい。それには、ビッグ・ネームのコンテンツが必要だ。レディー・ガガなどの有名タイトルを輩出しているアメリカの某プロデューサも興味は持ってくれたものの、決定打がないもどかしい状態の3月ごろ。・・・。
あ! いつか観たあのビョークの”Moon”、これで観れたらすてきかも! とインスピレーションが降りてきました。(困ったときにはなぜかいつもインスピレーションが私に降りて来てくれます 笑) 昨年秋ごろ、FB友達のフィードラインでたまたま目にした “Moon” 。あらためて見直して分析。レイヤーで構成された映像のように見えるので、半日もあればPTT用のフォーマットに変換できる→金銭的リスクが少ない→実現しやすい・・・
なにより、”Moon”の世界観を表現するのに、このプロダクトはぴったり。彼女もアーティストなら、私の意味づけを理解してくれるに違いない!と思ったんです。
わたしもじぶんの行動力にはビックリですが、その日すぐにビョークのレーベルをwebで調べて電話。(もちろん、ドキドキしながらです)
「ワン・リトル・インディアン・レコードです」
「こんにちは。Palm Top Theater プロジェクトの上田です。社長さんいらっしゃいますか」
「少々お待ち下さい。」
・・・とあたかも、社長さんの旧知の知人であるかのようにスラスラと話し、取り次いでもらう!(笑)悪質なセールスか?!
しばらくすると社長さんが電話に出て来ました。
「××ですが」
「こんにちは。Palm Top Theater の上田と申します。じつは私達、かくかくしかじかこのようなデバイスを作っていて、ビョークと一緒に仕事したいんです。”Moon” のPVを観たんですが、このデバイスがさらなるクオリティを提供できるのではと思って。」
「ふーん。じゃあ、リンク送ってくれるかな?」
「はいもちろん。」
で、急いでサマリーを作りメールしたその翌々日、「ビョークがOKと言っているよ」という短い返事が来ました。じつに嬉しいニュースなのですが、あまりに信じられず、じぶんの目を疑い、その短い一文を何度も読み返したりして・・・。
さっそく製品プロトタイプを見せにロンドンへ。レーベルの社長さんは、まるでマフィアのドンのような感じで、正直びびりました。レーベル事務所も箱やらCDやらが散乱している倉庫で、なんとなく慌ただしい感じでしたしね。でも反応は上々で、めでたくプロジェクトにgoサインが出ました。
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しかし、ほんとうのハードルはいつも、リアライゼーションの段階にあります。当初想定していたようにテクニカルに簡単ではないことが判明。さらに多くの人たちを巻き込み、説得する必要がありました。資金繰り、権利、etc etc… 方々から何度難色を示されたことか。その度にややめげながらも、「でも、こういうふうにできるかもよ?」と食らいついたんです。
5月には、ビョークのPVプロデューサさんに入ってもらい、ロンドンで打ち合わせ。ポールマッカートニーのPVなども作ってる方だとかで、たいへんなプロジェクトになってきました。ビョークの有名な PV、All is Full of Love のプロデューサでもあります。
ドキドキ、ハラハラ、もう緊張しまくりでしたけど、やはり「あのMoonをこのデバイスで見てみたい」という当初の動機がビデオ完成まで導いてくれました。そして、私のボスも、私を信じてずっとサポートし続けてくれました。こうして、7月中旬にめでたく納品。
その後も、気が抜けません。相手が相手だけに、契約もきちんと抜かりなくしておかないと・・・と、「相手が相手だけに」とかいっておきながら私はどんだけ神経が図太いんだか、値引き交渉までしたりして・・・(笑) 先方も「こいつは日本人の顔してるけど、中身は抜け目ないダッチだな」と思ったのではないでしょうか(汗)
ついこの間、11月に2度目の訪問にうかがったときには「うちの事務所のコーヒーは不味くてね」と、みずからコーヒー屋さんに行って買って来てくださいました。
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この契約目的のロンドン訪問時、奇遇なことに、ちょうどフル・ムーンだったんです。作品 ” Moon” も、月のエネルギーを音とビジュアルで表現した作品。お月様のお導きでしょうか、じつに良い雰囲気で今後の展開の話も弾み、実り多いミーティングとなりました。
“Moon” をおさめたアルバム ”Biophilia”は、原子のアトムから宇宙までの自然現象を、その一部として音で表現した美しいアルバム。一曲ごとにテーマがあります。”Moon” はタイトル通り、月がわたしたち人間に及ぼす作用を表現した作品です。毎月、月のサイクルとともに血を流す女性には、原子とか宇宙とかいうメタレベルの話でさえも、コトバ無しに語りかけてくれる作品です。
”Biophilia” の形態はCDアルバムにとどまりません。世界初の「アプリ・アルバム」としてもリリースされています。iPhoneで、ユーザーがビョークの音を組み変えて、新しい音楽を作る事ができるんです。(おもしろいです! 是非ダウンロードしてみてください)
「ビョークだって、ひとりの人間であり、女性であり、常に新たな試みを続けるアーティスト。このヒトなら私の感性に共感してくれるだろう」そう信じてきました。なかなかの冒険でしたが、私も成長する事ができ、そんな機会を与えてくれたマルチ・ナショナルなチームに感謝しています。月のパワー礼賛!
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国を超えて、言葉を超えて、共感を繋いできたプロジェクトです。神秘的で、フェミニンで、ピュアなビョークのMoon。ぜひPalm Top Theaterで見て欲しいです。一般販売は11月中旬、間もなくアナウンスできる見込みです。Facebook ページにて “いいね!”登録しておきましょう。
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