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ピンと張りつめた秋の空気の中、
陽に照らされていると気持ち良いんだ、
草の香りがするよ、
土の香りが懐かしいな、
背筋を真直ぐにして、
首をこうして伸ばすと、
風の声が聞こえるよ、
ママが私の事をとっても好きだった事は知ってるよ、
私もママの事が大好きでたまらなかったんだ、
ママが腰に袋をくくり付けてその中にハサミや紐を入れると、
ママが小山のお庭で仕事を始めるって知ってたんだ、
私は庭で花を触っているママが好きで、
ママが庭に行く時はママの側から離れたくなかったんだ、
ママの側にいるだけで安心できたんだ、
でも、今日はなぜだかお庭にいるママの側に行く事が出来ないんだ、
少し歩くだけで心臓がドキドキし始めて苦しくなるんだ、
手も足も今日は動きがおかしいんだ、
まるで自分の身体じゃないみたいなんだ、
本当はママの側まで行きたかったんだけど、
今日はどうも駄目みたいなんだ、
今、丘の上までやっと歩いて来る事が出来たよ、
ここだったらママがお庭のどこにいても見えるしね、
そして時折、心配そうにママが私の方を向いて微笑んでくれるでしょ、
そんな時、ママは私の事好きなんだなって感じるんだ、
でも今日はとても身体がおかしいんだ、
私、ママの事が好きだよ、
ママのところまで走って行きたいのに、
身体が言う事を聞いてくれないんだ、
もう食事を取りたくなくなってからどれくらい経っただろうか、
いつもママが心配そうに私の顔をなでながら、
昔、私の大好きだったお肉を鼻の前に差し出してくれてたけど、
ママには悪いけど私食べる事を忘れたみたいなんだ、
そして誰かの声が風に乗って聞こえて来るんだ、
『もうあなたはそろそろ準備しなさいね、
その為にあなたはたとえ大好きなお肉が出されても、
決して食べてはいけません』
って聞こえて来るんだ!
『あなたはもう次の準備をしなければなりません』
って言うんだ!
だけど私はママが大好きだから、
ママが口から出してくれる唾だけは飲む事にしていたんだ、
それだったら誰かさんだってきっと許してくれるはずなんだ、
それでもママが、
私に唾を飲ませる振りをして、
その中にお肉を混ぜてるでしょ、
『ママ、そのお肉私に食べて欲しいの』
ってママの瞳に聞いてみると、
『ママはあなたにこのお肉食べて欲しいの、
だってこのままじゃあなたは死んじゃうよ、
こんなに痩せちゃって、ママ哀しいな!』
ってママの瞳が言うから、
私は誰かに見つからないように、
ママの口からこっそりそのお肉を食べていたんだけど、
ママ、それも今日はもう出来なくなったみたいなんだ、
『あなたは準備が出来ましたか、
そろそろ行く時間が来ましたよ』
ママ、風の声が聞こえるよ、
ママ、ごめんね、
ママが私の事を大好きな事は知ってるよ、
わたしもママの事が大好きだよ、
ママ、今庭にいるママの側まで行きたいんだけど、
私、今日は行けないみたい、
ごめんね、ママ
ママ、大好きだよ、
『ビッケちゃんどうしたの、
さっきからずっとママの事を見ていたけど、
やっとママ、お庭の仕事が終わったから、
一緒にお山のお家に戻ろうね、
あら、ビッケちゃんどうしたの、
歩けないの、
ママがだっこしてあげるから、
一緒にお家に帰りましょ、
ビッケちゃん、
ママはビッケちゃんの事が大好きだけど、
あなたもママの事が大好きでしょ、
ママ、昔から知ってたのよ』
『ビッケちゃん、
そうなの、
何でもママの言っている事が分かるのね、
ビッケちゃん大好きよ、
さあ、お家に帰りましょ、
お腹すいたでしょ!』
突然一階のリビングの電球が明るくなり、
階段を降りて来るままの足音が聞こえる、
ママ、こんな夜中に起こしちゃってごめんね、
突然咳が止まらなくなって、
心臓がドキドキして身体が揺れ始まって、
もうどうにもならなくなったんだけど、
ママとパパが寝ていたから、
私、リビングにおりて来たんだけど、
どうしても咳が止まらなくなっちゃって、
ママとパパを起こしちゃったみたい、
ママ、もうどうにもならないみたいなんだ私の身体、
心臓が私とは関係なく勝手に動いているみたいなんだ、
まるで身体全部が心臓にでもなったようなんだ、
もう、痛むことすら出来ないよ、ママ、
でもママ、私は苦しくなんか無いから、
ママ、哀しそうな顔をしないで、
ママ、さっきからずっと私の顔を覗き込んで涙を流しているけど、
私、ママに悪い事してるのかな、
私はここよ、ママ、
ママが大好きな私はここよ、
ママ、泣かないで、
ママ、何だか手と足が冷たくなって来たみたい、
ごめんね、ママ、
ママが唾を私の飲ませようと口付けしているのは分かってるのに、
私の舌はもう冷たくなって来たみたいで、
私の言う事を聞かなくなったみたい、
ママ、ごめんね、
ママ、身体全部が心臓になろうとしているみたい、
身体が揺れて座る事も出来ないんだ、
立ってるだけがせいいっぱいなんだ、
ママを悲しませないように、
私を生かそうと私の身体善全部が心臓になって来たみたい、
ママ、いくら息をしてみても、
身体が冷たくなって行くのを感じるの、
ママ、
ママ、
ママ、大好きだよ、
ママが私の事を大好きだっていう事、
私、知ってたよ、
ママ、
ママ、
ママ、大好きだよ、
ママの唾飲めなくてごめんね、
ママ、大好きだよ、
ごめんねママ!!
私ったら大きな声で吠えたみたいだけど、
ママ、びっくりしなかった、
私は大丈夫よ、
ママ、私の心臓が急におとなしくなったみたい、
ママの腕の中でぎゅうっと抱かれているのに、
今は全然痛くないんだ、
ママ、大好きだよ、
ママ、今日は一緒にお山のお家に来れて良かったね、
ママが今週はお山のお家に行くから、
ビッケちゃんも絶対にお山に行こうねって、
何日も前からまるで呪文のように私に言い続けてたでしょ、
今日、私、ママとお山に来れて、
とても幸せだった、
あの丘に座ってずっとママを見ていられたし、
ママにだっこしてお家に連れて来てもらったし、
今、ママの腕の中で抱きしめられているし、
ママ、今、幸せだよ!
でもママごめんね、
私、準備が終わったみたい、
ママの泣いているお顔がだんだんとかすれて来たの、
パパが私の名前を大きな声で呼んで、
私の身体を叩いているけど、
だんだん感じなくなって来たみたい、
ママ、私、準備が終わったみたい、
ママ大好きだよ、
ママを泣かせてごめんね、
山小屋の屋根の方から、
ママとパパが私の身体を抱きかかえているのが見えるの、
パパったらこんな夜中に、
お庭に出て花なんか摘んで、
私の周りに飾ったりして、
何だかパパらしくないよ、
『ビッケ、
あなたの目だって、
鼻だって、
耳だって、
足だって、
まだまだ使えるのに、
何で息をしなくなっちゃったの、
ママは哀しいよ!』
そうだ、
ママの言う通リだ、
ママ、見て見て!!
ほら、私は今お山のお庭を走ってるわ、
前足も後ろ足も私の言う事を聞いてくれるの、
私は、どこまでも走れそう、
心臓の揺れも全然気にならなくなったの、
私は、どこまでも走れそう、
又明日からママの後をついて行って、
お庭を走れそうなの、
でもなんでママとパパは私じゃなくて、
さっきまで私がいた身体を揺すっているの、
なんでママとパパは私がここにいるのに、
泣いているの、
ママ、パパ、私はここよ、
何で私に気がついてくれないの、
ママ、大好きだよ、
ママが私の事を大好きだって知ってたよ、
パパ、有り難う、
もうすっかり夜が開けたのね、
朝陽が眩しいわ、
草の匂いがする、
土の匂いがする、
私の冷たくて固くなってしまった身体を、
暖かい毛布にくるんで、
山のお庭や森の中、
いつも私が遊んでいた場所を、
だっこして見せてくれてるのね、
そうなの、
昨日は私行きたくても行けなかったの、
パパがだっこして私に見せてくれてたのね、
パパ、有り難う、
これからも、
ママとパパがお山のお家に来たときは、
絶対に私はあの丘に座って、
ママとパパを見ているからね、
ママもパパも気が付いてね、
ママ、この丘に座っていると、
風の声が聞こえるの、
ママの声が聞こえるの、
ママの香りが大好き、
ママ、大好きよ、
ママが私の事好きだって知ってたよ!!
2012/10/21、 am2:30
ビッケ(愛犬)が風の声が聞こえる、
丘の上に眠る事になりました。