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ラマダンも折り返しに入った頃、フィールドワークに行ってきました。
先月からゴロンタロ中の様々な鉱山に行っています。
場所によって鉱山の規模やそこまでの交通手段が変わります。
今回の鉱山は今まで行った中で1番の規模で内心テンションが上がっていたのは、ここだけの話です。
そもそもなぜ鉱山ばっかり?
ここで、タイトルにある“医療地質学”との関係が出てきます。
“地学”や“地質”と聞くと何を、そしてどんな分野を想像しますか?
“地球”“石”“地震”“火山”など漠然とした単語・イメージをお持ちの方も、“構造地質学”“記載岩石学”など少し難しい内容でお答えになる方もいらっしゃると思います。
地質に限らずどんな学問にも共通して言えることだと思いますが、学問は単成分ではないと思います。
私の専門の火山学も火山や火山灰だけ研究すればいいというものではありません。
岩石学・結晶学など以外に、化学の知識や全く予定外(笑)の物理(例えば流体力学など)の知識など、さまざまな知識が合わさっていると思います。
さてここで“医療地質学”です。
医療と地質は、あまり縁がなさそうですが…改めて考えてみて下さい。
私たちは、長い間、特定の地質や土壌の上で生活してきました。
井戸水を飲み、その周辺でとれた作物や魚介、肉類等を食べてきました。
これらの水や土壌、食物の中には、その地域の特徴を反映したミネラルや様々な化合物を含んでいて、環境媒体内の含有成分と生物内の化学組成とは高い相関を持っています。
すごく極端な言い方をすると、人間の体や遺伝情報などは食物だけでなく、地圏環境情報に強く依存するということになります。
このような地質に深く関わる金属元素や無機・有機化合物の情報をもとに、健康や医療、公害のような社会的な課題について科学的な検討を行うのが医療地質(Medical Geology)の研究領域なのです。
日本国内では深刻な公害問題は少なくなっています。
しかし一方で、途上国や経済発展の著しい国々では、依然として土壌・水質汚染による深刻な環境・健康問題が山積しています。
少し例を挙げます。
バングラディッシュやパキスタンでは、ヒ素やふっ素による飲料水汚染が深刻で、何万人という市民が皮膚がんや内臓疾患により亡くなっています。
作物中のカドミウム濃度が高い汚染米の問題も知られています。
これとは逆に、土壌中のセレンが極端に少ないセレン欠乏症のような医療問題も報告されています。
話を戻します。
私がフィールドの場所に選んでいる鉱山は、ほとんどが違法鉱山です。
ほとんどの鉱山で、金や銀・銅などを精錬しています。
これらの鉱山・精錬所では、精錬中に使用した水を薄めることなく川に直接流しています。
この精錬中に使用している物質が“水銀”なのです。
鉱山で働いている人やその家族は、この水が混ざった川にいる魚を食べたり、稲作に使用したりしています。
これらの水が井戸水にも混合している可能性もあります。
さらに、汚染は広がります。
大抵の鉱山は山の奥深くにあります。
したがって、川の上流で汚染された水は、中流・下流とその周囲の鉱山とは直接関係のない住民にも被害が広がります。
私が実際に鉱山に行って、“水銀使用を中止してください”とか“水の処分について考えて下さい”と言うことはありません。
実際のところ、本人たちも環境や人体に影響が出ることを知っているのです。
なぜならば、どこの鉱山の方も“ミナマタビョウ”について知っていたからです。
私たちが出来ることは、鉱山周辺の土壌や水・植物を採取して分析することです。
さらには、人毛(髪の毛)も採取します。
このフィールドには、医師にも同行していただいています。
さまざまな問診をしていただき、髪の毛の分析結果と合わせて症状を考えていきます。
少し、固い話が続いてしまいました。
こんなフィールドですが、サブタイトルにあるように絶賛ラマダン中の調査です。
私は、出来る限り断食をしようと心に誓って出発しました。
しかしフタを開けてみると、キリスト教だったり生理中だったり…という具合でした。
唯一、男子学生(手伝いとして同行)が断食を行うという状況でした。
さらには、重労働をする場合などは断食が免除されるので、鉱山で働いているほとんどの方は断食を行っていませんでした。
と言うことで、私の不安は必要のないものに終わり、男子学生には申し訳なかったが、昼食を摂ったり水分補給したりしました。
この学生は1日目こそ断食をしていましたが、2日目に行った鉱山のあまりの過酷さにとうとう断念してしまいました。