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2012/07/16

こんにちは。根本齒科室の根本です。

いつもすぐ捨てているニュースレター「日歯広報」
(日本歯科医師会)今まさに捨てようとした瞬間、
ある語句がチラッと目にとまりました。

「歯科口腔保険法」

・・・あぁ、ちょっと昔を思い出しました。

2007年参院選「石井みどりに入れろ」
2009年衆院選「自民党に入れろ(えっ、この茨城3区で???)」

当時は歯科医師会の上のほうが頑張っていて、いろいろお達しが来たものです。
面倒な気がしていましたが、陰で、こんな形になるように頑張っていたんですね。

また、最近あった地元市の歯科医師会の会合で、ある先生が言っていました。
市の協賛で、某小学校にて近々フッ化物洗口法を試験的に行うようです。
歯科保健を、生涯スパンの取り組みと捉えた形としては良い取り組みの一歩です。
ただ

「・・・どうも 教 育 委 員 会 の方で異論が強くて」

教育委員会。まぁ、どこの地域でもそうなのかもしれません。

これは学童期(6歳~12歳)中心の措置ですが、受療率が極端に低い昨今、
予防歯科処置の公衆化にも一定の意義がありそうだと思う今日この頃です。

しかし、私はずっと違う「ところ」を見ています。
違う「ところ」、とくに注意が必要な期間は、ココです。

◆ 19M(約1歳半)~31M(約3歳)

 私もときどきお手伝いに伺う、歯の保健センターの健診で見ていると、
 1歳半健診でほぼ上下左右4本づつ萌出しています。3歳(2/6~3/5)健診で5本づつ。
 統計的に、この期間内を上手にクリアすればその後も結構安泰だと分かっています。
 この期間でむし歯を作って、菌が居座ると、歯医者人生ほぼ確定です。
 その冷徹な結果は、幼稚園児の口腔内を見ると、はっきり分かるのです。

 また、小学生でむし歯の少ない子でも、この4本目と5本目の間(D-E間)が
 やられていることがとても多いのも乳歯齲蝕の特徴です。

 D-E間は接点(コンタクト、隆線etc)の形態が複雑でみがきにくい面もありますが、
 もしかしたら、この部位の萌出期間差でもある 19M~31M の衛生管理状況が
 特異的な齲蝕発生と関連があるのではないかと、最近すこし疑っています。

お口の中には、当然ながらさまざまな菌が常在菌として存在しています。

非常に大きく分けると、「むし歯菌」「歯周病菌」「その他の菌」がいます。

今後何十年~一生のためにも、人生の初期は、まず「むし歯菌」の徹底隔離が大事です。
これを第一段階と私は考えています。

子供は自分で自分の歯を適切に守れません。100%周囲の大人の力が必要です。

◇ 幼稚園~小学校

 このような集団教育の場では、一斉実施が有効な「フッ素」の応用がよく行われます。
 手法としては「フッ化物洗口法」が簡便で有効です。

 フッ素の応用は、幼弱歯が「安定化」するのでたしかにむし歯になりにくくなりますが

  「むし歯菌」の徹底隔離=プラークコントロール
  「砂糖(ショ糖)」の管理=シュガーコントロール

 が家庭内でおろそかだと、ほとんど意味が無いような気もしています。
 フッ素の利点は、「すでに生えた」「若い」歯を「安定化」させる点です。

◆ 小3・4~高3

 この頃になると、親の仕上げみがきや管理の手を離れる年代です。
 しかしそのせいで、上記要因のある子は、むし歯が急速に進みやすい時期でもあります。

 また、この年代よりも前は「むし歯菌」のみの対応で十分ですが、
 早い子では、永久歯が生え揃ってくる小学校高学年~中学校あたりから
 歯肉炎・歯周病もはじまります。


 例は少ないのですが、「若年性歯周炎」という難治性の破壊的疾患があります。
 一般開業医では、まず適切な対応は困難だろうといわれているものです。
 それに対する早期のスクリーニングも、この年代ではとても大事です。
 腫脹・発赤などの明瞭な自覚症状に乏しく、破壊が迅速で手遅れになりやすいからです。

私は以上の、◆19M~31M ◆小3・4~高3 の危険な2つの期間を特に注視しています。

しかもこの期間は、◆19M~31M ⇒母親・周囲の大人 ◆小3・4~高3 ⇒本人 
にほぼ依存しており、歯科医院などの民間施設や、学校などの公的機関が関与する
チャンスがほとんどない時期
でもあるのが特徴です。

ここをどうにか対処しないと、つまり、この時期に


◆ 育児で忙しい母親や周囲の大人
◆ 思春期・自我形成期のデリケートなお子様

に「直接」「丹念に」アプローチしないと、正直、抜本的な改善はないと思います。

すなわち

 「痛い」「取れた」後に、あわてて歯科医院に駆け込む ⇒ 予想以上に悪化済

なスタイルからの脱却が本質的に不可能だということです。

このようなスタイルは、自分自身だけでなく、小さなお子様にも悪影響を及ぼします。
論より証拠、典型的な例を挙げます。
(プライバシー保護のため、画像および内容を一部変革してあります)

<A様(20代)>
 現在第二子妊娠中につきレントゲンは撮影できず
 お子様が1歳半健診で齲蝕を指摘されて、3歳健診でも指摘された
 原因菌の垂直感染(親⇒子)が疑わしいケース

<B様(4歳)>
 片親(男性)
 機嫌を取るために親や祖父母が甘いものを多く与える

最近の小さい子は、むし歯ゼロも結構多いのですが、ある子に、このように集中して
あるのです。

とりわけ、1歳半~3歳の時期は特に大事です。
この時期は、親や周囲の大人の取り組み次第でほぼ100%決まってしまいます。

また、前例の<A様>のように、20代で歯に大きなダメージを負っている場合は、
A様自身の中~高時のエラーが大きく関与している疑いがきわめて濃厚です。
このエラーは「むし歯などの歯科疾患そのもの」「食・生活習慣」両面を指します。
そしてそれはそのまま「むし歯・歯周病の世代間連鎖(=垂直感染)」につながります。

このあたりを、平均的なところで、大まかに図にまとめてみます。

歯科口腔保険法の条文を見直してみましたが、このゾーンに対するピンポイントの
有効打は、まだまだ打ちにくそうな感じです。

ではどうやって有効打を打つか。

折を見ての指導というのも有効だと思います。
健康保険など公的サービスでの予防的処置・健診メニューの拡充も大事です。

しかし現実問題として一番手っ取り早いのは、有?病者受療率の上昇

現在はなんと、1%程しかありません。

(厚労省統計(PDF)p12下段折れ線グラフ黄線 および p16下段棒グラフ左側)

これを8割程度に持っていければ、このゾーンに施設として介入するのに
非常に効果的なのはまちがいありません。
それに対する最大の阻害要因であり、一番変えなければいけないところは

「歯医者は痛くなってから行くところ」

という国民感情そのものです。じつは

◇ 痛くなく優しい先生がいい
◇ 回数がすぐ終わる先生がいい

というのは「歯医者は~」の傍証であり

◇ 上手な先生がいい

というのは、さらに上の2つの◇を別の表現で現した同じ意味に他なりません。
つまり、根本のベースに

『歯医者には基本的に行きたくない』

というのがあるということです。

これは、歯医者に、医者と同じようなこと(治療中心主義)を要求しているからです。
しかし、こちらの表(Click)で述べたとおり、歯科は医科一般と真逆の性質です。

なぜ私たちは「歯医者は~」と、歯医者に医者と同じことを要求してしまうのか。
その無意識の洗脳?の根源には、法制度的な制約が大きな障害として存在するからです。

① 皆保険
 △ 国民は全員保険証を持たされるので、保険外の医院の方針に納得できない
 △ 保険医登録しない医院には誰も来ないので、医院が保険の制約に縛られる

② 有病制限
 △ 一旦悪く(むし歯・歯周病など)ならないと保険が使えない

③ 資格制限
 △ (歯を削る)歯科医師しか開業できない/独立業務できない

 
これらの①~③の制約があるので、どうしても初回は「悪くなった人」が
「削る」とか「治療」のためにヤラれざるを得ない形になっています。

歯科医院でも、どうしても「初回は有病者への治療から入る」という構えを
取らざるを得なく
なります。

両者ともこのような感じになってしまいますので、必然的に、どうしても
「自覚症状優先」「病気(=歯科疾患)治療目的」のためにでないと
歯科医院に行きづらい、という流れを固定化しやすいのです。

今現在が有病か否かににかかわらず、受療率を8割程度まで持っていくことが
◆19M~31M ◆小3・4~高3 の危険ゾーンへの介入に有効だ、と先に言いました。

しかし、①皆保険 ②有病制限 ③資格制限 などの制限を残したままだと、
患者様や先生の両者の意識が「自覚症状」「疾患治療」に誘導されてしまいます。
当然ながら

 「痛くならないと行かない」⇒「受療率1%」

の悪循環は何ら改善されません。
そこで、その逆を取って

「未病主義」

「資格規制緩和・権限委譲」

を進めることこそが有効なソリューションになると、私は思うのです。
そのキモとしては、すでに先進国では当たり前ですが、歯科衛生士が

 歯科医師の指示・監督から独立して業務可能
 「局所麻酔」「X線スイッチ」「管理者(分院長)」「開設者(開業)」

くらいは、せ め て できるようにすることです。
そうすると、一般レベルの認識も

[1] (②の別表現なので略)
[2] 初診で「病気」「治療」でなくても、保険(or格安クーポン等)で安心
[3] 歯科衛生士が相手なら、痛いことをされないので安心
[3´] 歯医者に若い女性が激増するので、男性陣もマメに通う気が起こる
[3″] 歯医者に若い女性が激増するので、女性陣も合間の雑談がより楽しみ

になります。
一般レベルから見ても、歯科医院の立ち居地が、根本的に激変すると思います。
きっと、国民受療率を大幅に押し上げること、間違いありません。

その意味で、ひとつ非常に意義のあるニュース(恐ろしい写真をClick)がありました。



(「痛いニュース」より抜粋)

「・・・男性衛生士 orz 」「歯医者終了」「俺たちの最後の楽園が」
まさに悲鳴にも似たネット上の反響が印象的なニュースです。

しかしこのニュースで、そこは全く本質ではありません。
コレのキモは「『 直 接 』 の 文 言 の 削 除 要 請 」です。

現在、歯科衛生士はまだ、歯科医師の『直接』の仔細な指示がないと、
何もできないことになっています。先進諸国に比べると、

何と厚かましい「マイクロマネジメント」

なのでしょう。歯科医学的根拠ゼロだし。

 まぁ、はっきりいって忙しい医院はそれどころではないので、形骸化
 しているところも少なくないのが実態ですが(ウチは割と暇)・・・

もうひとつ、歯科衛生士が初診を含め独立して臨床を行えるようになると
大きく変わる点があります。

それは、先ほども言ったように、歯科医院が
「治療をされない」「痛いことをされない」場所になる
ということです。
歯科医院の立ち居地が、根本的に激変する、とは、そういうことです。

歯科衛生士が前面に立って、必要のあるときのみ歯科医師に指示を出す
くらいの形であれば、患者様にとっては精神的敷居がきわめて低くなります。

◆19M~31M ◆小3・4~高3 の危険ゾーンへの有効な対処には、受療率の
ケタを2つ上げるくらいの徹底的な努力
が不可欠です。

そのためにも『歯科医院』というシステムやイメージの抜本的な改善なくして
事態は前に進まない
と思います。

法的な整備もそうでしょうし、既存メディアによる 正 確 な 広報も必要でしょう。

(おまけ)

「抜本的改革」「規制緩和」

一般的には、これらの用語は経済学でいう「インフレ対策(デフレ促進)」
のソリューションの意味で用いられます。
最近成立した三党合意『消費増税(するか後で考える)法案』の附帯条項18条が
いみじくも示すような、長期デフレ不況の現状では、このような
「インフレ対策(デフレ促進)」の匂いのする単語の使用は少々気がひけます。

しかし、ベースとしての受療率に最大80~100倍程度のレバレッジが期待できること
(この受療率の掘り起こしがないと、単なるデフレ促進になってしまいます)、
社会保障費の中でも、年金・子供手当のような所得移転と異なり、
医療費・介護費は、エコポイントと同様に消費刺激や内需・GDP拡大として働くこと
(逆の例が小泉改革での[本人2割⇒3割][マイナス改定]による緊縮財政)
(主として女性ですが)圧倒的な雇用創出、関連産業(医院、専門学校、材料屋etc)
の需要拡大を生むこと、などから考えても、まさに今のデフレ期にふさわしい、お口の

「強靭化計画」

と呼ぶにふさわしいものだと思います。

もうひとついっておきます。
そんな「バラマキ(←所得移転と内需くらい区別しろ!)は悪」とか「ムダ削減」とか
このデフレ期にまだ「インフレ対策(デフレ促進)」を喧伝している意味不明の御仁が
新聞TV等でも後を絶たないので、一応概算ですが予算的なことをさらっと。
医療費には昔から

3X8=24(さんぱにじゅうし) の法則??

というものがあり、国民医療費がだいたい30兆、歯科医療費はその8%で2兆4千億
と、ほぼ決まっています。
最近は医科医療費と薬価が伸びていて少し増えていますが、全体としては大きく
変わっていません。とくに歯科はほぼ完全な横ばいです。

ちなみに歯科の場合はその半分の約1兆2千億が入れ歯・差し歯・銀歯などの修復で、
残り半分が外科、歯周病、他などとなっています。

ここで、誰かの真似をして「口腔de強靭化プランww」とか適当に作ってみます。

「国民全員に毎年1人当たり年間1万円、歯科検診のために補助をしよう」
と決めたとします。
内容は、年2~3回程度の健診・清掃と、4歳~14歳にフッ素塗布・洗口とします。
全国民なので1億2千万人とします(計算上0歳から10●歳まで全員としています)。
国庫補助は1万円、国民負担は0~数千円程度で、別途考えます。
すると、これがちょうど1兆2千億(1.2兆)円なのです。

ついでにオプションで「毎年全国民の8歳児を矯正診断して、問題があれば
一期治療(簡易矯正レベル)の補助を行おう」というのも決めたとします。
8歳児の人口を100万人、一期治療が30万円、治療必要児の割合を50%とします。
すると、100万かける30万÷2で1500億(0.15兆)円なのです。 

これらを、非常にざっくりと、図にまとめてみます。

しかも、この計算では生まれたての0歳から大往生間際の10●歳まで、全員含めて
いるので、国民予防の実数はこの試算よりも数割程度少なくなることは明らかです。

さらに、残り半分の中には、初診再診料や、不定期の軽度歯周病(患者様の自主的健診?)
あるいは、実際の外科・その他の内容も数割近く含まれているので、それぞれを
半々程度(ピンク)(グリーン)とします。

そうすると、方向性としては、図の様に「入れ歯・差し歯・銀歯」の分の6~7割
程度を振り向けると十分実現可能なプランです。

なお、大変申し訳ないのですが、将来的な方向性として、補綴(入ry)の負担率上昇と
点数倍増を打ち出さざるを得ないのは

◇「アメとムチ効果」
◇「事前的モラルハザード防止」

の観点からの政策誘導上、致し方ないものと考えています。

設備面ではどうでしょうか?
左側の「国民予防」だけ考えて見ます。
患者(顧客)管理・メンテナンス業務なので、すべて衛生士に任せるとします。

日本の歯科医院の数を8万軒、診療日を年間250日とします。
一医院に年間のべ1500人訪れると、1500人かける8万軒=1億2千万人。
全日本人が1回づつ歯科医院を訪れた計算になります。
2(3)回づつ訪れたら一医院に3000(4500)人。250日で割ると1日12(18)人
手の遅い衛生士、ていねいな衛生士もいるので、1日12(18)人を2人で診るとします。
すると『常勤計算で』8万軒かける2人で、16万人の衛生士が必要になります。
おおむね現状の倍です。不足8万人の大幅な雇用創出、女性の社会進出になります。
米韓FTAで、アメリカは韓国の雇用を7万人も奪ったと言われていますが、それ以上ですw

一方、歯科医師は右側の、質の高い「矯正・外科・保存・補綴」に専念する形になります。
せめて1コマ1時間とって、きっちり良い仕事をしたいですね。
インプラントも、もう数十年は残るでしょう。
どうしても、母集団が多ければ、様々な要因で齲蝕感受性の高い一部の症例も残るでしょう。

 ここが読めないのです。

 むし歯・歯周病がほぼ壊滅すれば、次世代の一般歯科医師はほぼ不要になるでしょう。
 感受性の高い一部の症例が少し多めに残れば、今ほどではなくても、ある程度人数が
 必要になるでしょう。

しかし真に国民の口腔の健康を思うのなら、当座は、歯科医師は、治療者のポジションから
統括管理者・マネージャーのポジションに、ゆるやかに移行せざるを得ないかと考えます。

【今回のまとめ】

歯科口腔保険法、医療推進方策検討WGなど、予防系の流れが若干見えてきた。ここで●●強靭化を!

2012/07/16 06:12 | nemoto | No Comments