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2012/07/02

 

「チョコレートパフェと、フルーツサンドと、プリンアラモードと、ピーチクリームパイと、パンナコッタと、ラズベリータルトと、キウイソルベと、季節のサンデーをください。」

 

ご注文は、と聞かれたから、何も考えずにデザートメニューの端から端まで頼んでいた。
一人では食べきれないほどの量が狭いテーブルに敢然と並ぶ。でもわたしはこれを食べねばならない。朝から決めていたのだ。食べなきゃならない。食べて食べて食べて、食べ続けていなければならない。

罰なのかご褒美なのか、一口目のチョコレートはほろ苦くて甘かった。

昔から、ストレス解消に食べることを選ぶ子供だった。

疲れたら甘いもの。辛くなったら甘いもの。軽いいじめを受けた時もハゲそうになった受験のときも、わたしは常に食べることで何かを解消しようとしてきた。食べたからって別に状況が変わるわけではないし、むしろ体型は悪化してより悪くなる傾向にあることを自覚しながらも、食べ続けていなければ落ち着かなかった。

入社してからも、それは同じだった。

ころころと丸いこの体型を男性社員に揶揄されたときもアイスクリームを一時間で6つ食べ、ショートケーキをホールで食べた。コピー機でミスプリントを大量に印刷してしまった時も、ックライアントとの大事な待ち合わせに遅刻してしまった時も、自分のミスも相手の悪意も関係なく、わたしは事あるごとに食べて食べて食べまくっていた。

俯いて、ぼろ雑巾のように擦り切れた自尊心とプライドを甘いもので癒そうと努力していた。

 

目の前には、やわらかく溶けだしたキウイの清潔な翠色。
とろとろと流れる生クリーム、カスタード、チョコレート、つやつやとしたベリーの瑞々しい赤。

この店は冷凍ものは使わないらしく、どんな無茶な注文をしても美味しいデザートをあつらえてくれる。きれいに盛りつけられたアラモードのプリンに申し訳なくなりながら、わたしは手と口を動かし続ける。さくさくのパイを乱暴に切り分け、咀嚼し、サンデーにスプーンをつっこみ、食べ続ける。もっと味わわれるべき食べ物たちは、その間もなくわたしの身体のなかに落ちていく。空になった容器を睨みつけながら、わたしは必死に今日の出来事を反芻する。電話でのミス、クライアントの急な路線変更、同期の揶揄、楽しいことなんかひとつもなかった一日のことを噛みしめる。

 

溢れそうになる何かをこらえ、代わりに詰め込まれた甘い甘いクリームがわたしの喉を癒していく。大丈夫、まだわたしは食べられる。食べている間は、戦える。お腹をいっぱいにして、何も考えず、眠ってしまえばまた一日を迎えられる。

甘いものは今日も、わたしに優しい。

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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2012/07/02 10:09 | momou | No Comments