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今回は中橋と元ゲイバーオーナーの小林さん(仮名・48歳)の対談です。
中「小林さんは、ゲイバーのオーナーを10年以上されて、このほどお店を閉店されましたが、これまでのお店の歴史を振り返ってみてどのような感慨をお持ちですか?」
小「あっという間でしたね。お客さん、スタッフ、何人もの人が私の前を通り過ぎて行きました。それを毎日同じ場所で出迎え見送るという日々が、私の日常でした。開店当初から閉店時まで通い続けてくれたお客様もおられますし、一度来て忘れたころにやって来るというお客さまもいたり、一時期毎日のように通い詰めていたのに、ある時パタッと来なくなったお客さん、私が密かに恋心を抱いたお客さん、お客さん同士やスタッフ同士の色恋沙汰など、本当に色々な人や出来事が私の店で発生していました(笑)」
中「なかなか語りつくせない思い出がいっぱいといったところでしょうか?」
小「そうですね。当時は嫌な思いもたくさんしましたが、今となっては良い思い出で、私の財産でもあります」
中「その一つ一つの思い出をお聞きしたいところですが、今日は、ゲイバーの経営という観点でのお話しを中心にお聞きします」
小「ゲイバー経営学ですか? 私は失敗した人間ですので、教えられることは何もないですが、まあ反面教師ならかって出ましょうか(笑)」
中「失敗だなんて、とんでもない。小林さんのお店の経営状態は決して悪いわけじゃなかったでしょう?」
小「う~ん、しかし良くもないですよ。日々回してくのはいいですけど、将来的な展望はありませんでしたね。オーナー業に専念した時期も一時期ありましたが、結局、オーナー店長に戻りましたし、体力的にもボロボロでしたよ」
中「そもそもなぜゲイバーを始めたのですか?」
小「私は飲食業に興味があって、高卒後すぐに一般の飲食業界に飛び込みました。その後、一度社会人を辞めて、専門学校に入って調理師の免許を取り、自分のお店を持つことを目標に修業をしていたのですが、たまたま地元の近くの繁華街にあるゲイバーの多い一角に空き店舗が出たことを知り、若干安易にですが、そこで最初の自分の店を持つことにしました」
中「料理の修業を本格的にしていた調理師さんにとっては、ゲイバーというのはちょっと趣旨が違うような気がしますが…(焦)」
小「若気の至りです(爆)料理のおいしいゲイバーがあってもいいかなと」
中「面白いとは思いますが、それで当初の客入りはどうでしたか?」
小「ゲイ業界の友人知人などの応援もあって、客入りは良かったですよ。平日でも小さいカウンターと少ないボックス席だけの我が店は満員御礼になりました」
中「良いスタートだったわけですね」
小「はい。でも売り上げにはなかなか反映しないわけです」
中「よく聞く話ですが、客単価が安いおまけに、長居するので回転率が悪く、客でごった返しているのに利益が上がらないということでしょうか?」
小「そうです。凝った料理メニューもあったのですが、うちの店でそれを注文する人は希でした。望まれているのは、軽食とアルコールとカラオケですからね。お客のニーズを履き違えていたわけです」
中「それに気付いたとき、お店の将来をどう考えましたか?」
小「うっ、厳しい質問ですね。若干悲観的にはなりましたが、今さら後には引けないという思いで、私の料理人としてのポリシーよりも、ゲイバー経営者としてゲイのお客様のニーズに応える方を選びました」
中「お客のニーズに応えるように努力をされた後はどうなりました?」
小「無駄なメニューを無くしたおかげで、食材のロスなども減り、無駄な経費節減になりましたが、結局、どこにでもあるゲイバーと大差ない個性のないお店になった感がありました」
中「ウリであった料理を廃したせいで、お店の個性まで失った感じがしたわけですね。その後はどうなりました?」
小「周囲に新規のゲイバーの出店などもあり、固定客を奪われてしまったり、スタッフ不足で私がてんてこ舞いで働いたり、大御所への挨拶を怠って大目玉を食らったり、不幸というか不運というか、そういうこともありました」
中「ゲイバーには業界の横のつながりはあるのですか?」
小「地域によって多少はあるとは思いますが、横というより、その地元で古くから営業しているお店には礼を尽くさなければならないみたいな縦のつながりの方が強いかもしれません。でも、協力するとかいうより、どちらかといえば、潰し合いですかね(爆)」
中「その話は聞いたことがあります。結束が強いように思えて、実はそうでないのですね」
小「はい。個性豊かすぎる人が多いから、まとまらないですよ絶対に。どの店も必死に営業しているので、余所に協力する余裕なんて無いんじゃないですか?」
中「小林さんがお店を閉店することにした最も大きな理由は何ですか?」
小「体力的な問題です。自分がお店に出なければならないような経営状態が悪いのでしょうが、それにしても体力、精神力共に擦り減らしてしまいました」
中「でも、まだお若いと思いますが?」
小「今はまだ頑張れますが、将来もずっとこのままだと思うと、もう無理でした。いずれは店を譲りたいと思えるような人を育成できなかったのも自分の責任です」
中「事業承継ですね。難しい問題です」
小「はい。誰かにお店を任せるということをやってみた時期もありましたが、上手くいかなかったんです。どうしても売り上げが伸びない。景気のせいもあるかもしれませんが、ゲイバーが出会いの場として新鮮なものでなくなってしまっていますし、ゲイバーも潰れる店があれば、新規に開業する店もそれなりにあります。お客様にとっては、ゲイバーの選択肢はけっこうあって、その中での競争ですから、気が休まりません」
中「これからどうするのですか?」
小「原点に立ち戻って、料理人としての人生に転換していきたいと考えています。少ないですけど、新しい夢にチャレンジする資金もできましたので、第2の人生に向けて頑張ります」
中「チャレンジする心、素晴らしいですね。是非、頑張って下さい。成功を心からお祈りします」
小「ありがとうございます」
中「こちらこそ、ありがとうございました」