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昨年、自身が発表させていただいた研究会が今年も開催された。
ブータンの地域研究のみに特化した、マニアックすぎる研究会。
どちらかというと、事務局に近い立場に居るため、
「発表者が足りないようなら自分をアサインしてもらっても…」
と老婆心から口伝えしておいたものの、
なんら心配することもなく、発表者4組がすんなりと決まり、
参加者も満員御礼となった。
どうやら、先頃のブータンブームはすっかり一段落したものの、
アカデミックな領域では、ブータンは興味深いフィールドとして、
これからも注目されていくことになりそうだ。
有難くも身が引き締まることに。
さて、肝心の今回の発表テーマはというと、
教育から、言語学から、環境保護法から、漆工技法まで、千差万別。
まず気がつくのは、みな、当たり前のようにブータンに複数回、
場合によっては十数年に渡ってフィールドワークに入っているということ。
それから、マニアックであるが故に発表機会に飢えていて、
水を得た魚のようにノンストップで喋り続けるということ。
終日、発表者の勢いに気圧されながら、どこか高揚した気分に浸りながら、
ひっそりと、しかし大変盛況のうちに、会は幕を閉じた。
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せっかくなので、それぞれのトピックスについて簡単にご紹介しておこう。
正直、自分の知識レベルでは、これらの話が合ってるのか間違っているのか、
という判定は残念ながらできないので、その点はご了承いただきたい。
(1)
共に大分大学教育福祉科学部講師の都甲由紀子さん、川田菜穂子さんによる、
「ブータンにおける教員養成と学校教育の現状と課題」。
この発表で一番衝撃的だったのは、ブータンの学費の話。
Royal Thimphu College という、首都にある大学では、
寮生で Nu 150,000/年、自宅生で Nu 9,600/年(Nu 1≒1.7円)らしいのだが、
一人当たり所得が 1,870米ドル(≒Nu 93,500)/年 の世界で、
こんな寮費を払える家庭が、果たしてどれだけあるのだろうか…
(2)
秋田大学国際交流センター准教授の西田文信さんの指摘は面白かった。
「ブータン諸語の記述・歴史言語学的研究」と題して行われた発表の中で、
ブータンの地域言語において、「猫」の「舌」という単語を繋げた言葉が、
日本語の「猫舌」の意味に相当する、という話。
これだけでは、大いなる偶然で済ませられてしまう話なのだが、
はてさて、これは日本とブータンの文化的類似性を示すものなのだろうか?
(3)
国立国会図書館調査及び立法考査局農林環境課調査員の諸橋邦彦さんは、
「ブータン国家環境保護の特徴について」のご発表であった。
ブータンは環境保全を謳っている国家にも関わらず、
環境保護法制定は2007年と遅い、という気付きが研究のきっかけ。
それに対する回答として、2000年頃までは、ブータンにおける環境問題とは、
ほぼ森林問題と同義であり、森林法があれば十分であった、
という説明はなるほどと思わせる内容だった。
(4)
東北芸術工科大学非常勤講師の北川美穂さんによる、
(宇都宮大学教育学部准教授の松島さくら子さんとの共同研究)
「ブータンの漆工技法と漆器産地の現状」。
漆の化学式からはじまる、最後にして最高にマニアックな内容だったのだが、
ここでも興味深い論点が示された。
それは、ブータンにおける漆油採取や漆掻き法に、
日本の古典技法との類似性が見られる、ということ。
このように、日本との文化類似性をお二人が指摘したことは。。
と、こんなオープンな場で滅多なことは口が裂けても言えないので、
今後、包括的な文化人類学的研究が待たれるところ。
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さて、幸いなことに、というべきか、不幸なことに、というべきか、
自分がテーマとしている「ブータンの情報化」を取り扱う競合研究者には、
今回もお目にかかることはなかった。
これからの研究が相変わらず茨の道であることは間違いないわけだが、
ブータンでフィールドワークを行っている日本人がこれだけ居る、
という情報は、自分としては大いに励みになるものもであった。
ぜひ、上手く相互協力を図りながら、自身の研究も進めていきたい。