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つんのめりそうな速足で角を曲がる姿を見たら駄目だったんだとすぐに分かった。
お祝いにしようねとお互いに発破をかけあって、面接を受けたのがもう2週間以上も前になる。こないだがわたしの受けた会社の内定発表で、今日があの子の受けた本命企業の発表日だった。
受かったら一緒に旅行に行こうね、と話していた計画がちらりと頭をよぎる。明るい太陽の照る、陽気であったかい街に行こうね。つい先日も笑いながら眺めていたパンフレットを鞄にしまうと同時に、彼女が店に突入してきた。
――外、寒い。
彼女は入ってくるなりそう言って、ココアを頼んだ。このお店のココアはすごくおいしい。疲れた時もしんどいときも、適度な甘さで心の底からあっためてくれる。
湯気の立つココアをスプーンでかき混ぜながら、駄目だった、と彼女は呟いた。そっか、とわたしは言った。ヘタな慰めなら聞かないほうがましだと言うことは、わたしもよく知っている。
完全に放っておかれたら寂しいけれど、知ったようなことを言われると余計に傷つく。ぎりぎりで平常心を保っているから、たった一言で突き崩されることの恐ろしさに怯える。
だからわたしたちは無言でカップの中の渦を見ている。
わたしたちはほとんど双子のように同じような時間を過ごしてきた。
小学校でのお遊戯会も、中学校での形だけの受験も、高校時代の青春も、大学時代の恋のあれこれも、ぜんぶ同じように分かち合ってきた。日中は学校でカフェで、夜は深夜まで電話とメールで、お互いについて知らないことなんて何一つなかったと思う。親子よりもずっと一緒にいたし、親友と呼ぶには近すぎるくらい、わたしたちはいつだって一緒だった。
もちろん、いつまでもそんな風にいられるなんて思えるほど楽天的ではなかったけど。
「旅行、行こうよ」
え、と顔を上げると、彼女は少し眉を寄せて口を尖らせていた。怒っているわけじゃない。これは照れた時の癖。しんどいときに、しんどいことを悟らせないようにするこの子の癖。
「遠慮なんてしないでよ。本命に振られたからって別にそれで人生終わるわけじゃないもん」
だから一緒に行こうよ、と彼女は続けた。それから何事もなかったかのように、明日以降受けるつもりであると言う企業の名を挙げた。エントリーシートは通ってるんだ、と。
面接を受けた会社と同じ、同系列の業種であるらしい。小さいけどいい会社みたいだし、人事の人も親切だしと話す彼女がどれだけあの会社に行きたがっているか知っているから、わたしは黙って頷いた。うまくいくにきまってるけど、それを言い放つほど無責任にもなれなかった。
「旅行、行こうか」
「うん。行こうよ。うんと熱い、南の国にしよう」
まだ微かに湯気の残るココアを挟んで、わたしたちは頬笑みあった。
そうすることでしか、痛みを共有できないような気がした。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。