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2010/11/19

最近、最初からLGBTマーケットをターゲットにして起業しようとする起業家の方々からのご相談が増えてきました。

LGBTマーケットの市場規模が酒類販売に匹敵する6兆円超と言われて久しいですが、ようやくこの分野に注目が集まり始めたような気がします。

しかし残念なことに、LGBTに対する知識や理解が乏しく、需要をきちんと把握しきれていないのに、ただ良質な顧客層としてだけ認識し、まず、商品やサービスの開発を急ごうとするパターンも散見されます。

LGBTマーケットにアプローチしていく担当者やその上司たる責任者はもちろん、企業全体としてダイバーシティの理念をよく理解し実行し、LGBTについての正確な知識と理解、必要な接遇訓練を経て、はじめてスタートラインに立てるということが、なかなか理解してもらえない現実があります。

LGBTの当事者は、普段、普通に消費生活を送っています。その生活の中で、ヘテロセクシャルと同様に、商品を購入し、サービスを享受し、一般的な経済活動に当然に参加しています。

その彼らに振り向いてもらえるだけの商品やサービスの開発は、彼らの需要と消費行動、前提となるポリシーや生活環境を把握し分析してからでないと始まらないのです。

「ゲイの人向けに、ちょっとマッチョな男性の露出度の多い広告を出したら売れますかね?」とか、「女性同士のキスシーンで看板を作るといいですかね?」と、いきなり聞かれても困ります。

確かにそれは目を引くでしょうし、話題性はあるでしょう。

でも、その商品やサービスが一時的に売れたとしても、継続してお客様の心をつかむためには、適切な接遇が欠かせないのです。

LGBTというのは、セクシャリティによる区別ですから、そこのセクシャルな要素だけを取り出して考えようという発想は理解できます。

しかしだからといって、視覚的にLGBTの本能に訴えればいいじゃないか、という安易な考え方は浅はかでしょう。

LGBTの他、あらゆるマイノリティをも受け入れようとするのが、ダイバーシティの基本的な考え方のはずです。

LGBTマーケットの魅力が煽られることで、目先の利益だけを考えて、LGBTを食い物にするような発想で市場参入を図る人々がいることは非常に残念です。

きちんと社会貢献できる企業、マイノリティにも喜んでもらえる商品やサービスを開発したいと真剣に取り組める企業に、この魅力ある市場に参入して頂きたいと思うのです。

私がコンサルタントとして取り組んでいるプロジェクトの中には、担当者は非常にLGBTに対する知見が深いのに、責任者たる上司が真逆であるというケースがよくあります。こういう場合、担当者が非常に苦労しています。スタッフの足並みが揃わない元凶でもあり、何よりも未知のLGBTマーケットに乗り込んでいく精神力を減退させてしまいます。

組織としての考え方と、現場の担当者の考え方が一致することは、実は非常に難しいことなのだと思い知らされることが多々あります。

一番の理想は、経営トップがダイバーシティの理念に真に共感し実践していることでしょう。

LGBTマーケットで自由自在に立ちまわれる企業となるには、企業全体の取り組みが必要であるということです。

板挟みに合っている担当者達を見ると、本当にかわいそうでなりません。

この状況が、日本でのLGBTマーケット活況の『生みの苦しみ』であることを願っています。

あらゆるマイノリティが暮らしやすい世界は、大多数の人々にとっても平和で安全な世の中のはずです。

日本が中身の伴った社会発展を遂げ、個々の国民皆が心の平穏を分かち合える世の中になって欲しいものです。

マイノリティを通して見る我が国の社会構造は、まだまだ歪で尖った部分がたくさんあるように思えます。

それを丸く滑らかにするには、政治の力が必要なのは言うまでもありません。少しずつでも確実に正しい政治力が発揮されていることを期待します。

2010/11/19 12:01 | nakahashi | No Comments