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2012/01/24

こんにちは。根本齒科室の根本です。

先日、ご近所のみどり幼稚園の歯科検診に行ってきました。
縁あって、ひょんなことから幼稚園の園医を引き受けることになったのですが
児童の皆さんを見ていると、いろいろ学ぶことが多く、ためになります。

ここでは、ご近所の山村医院の先生とご一緒に、年に2回、内科と歯科の検診を行います。
1月と6月にあるのですが、今回の1月は新入生の入園前検診で、一学年?!分になります。
6月には園児全員の検診があります。これがまたすごいのですが・・・

地元の歯科医師会でも、市の保健センターで持ち回りで検診をしています。
主に1歳6ヵ月検診と3歳(2/6~3/6の間)検診ですが、それともまた違う、
独特の雰囲気です。

そんな幼稚園の話です。


◆ 幼稚園とはどんなところか

多くの人が経験したはずなのに、具体的にはどうだったか
ほとんど覚えていないのが幼稚園時代です。

オジサンの目線で、改めて何十年ぶりに門をくぐって驚いたのは、とにかく

 エ ネ ル ギ ー の 塊 が 熱 く 燃 え て い る

場所だということです。
幼児の集団にあんな力強いオーラがあるとは思いませんでした。
子供たち一人ひとりが、何だか発光体のようですらあります。

そんな園児たちをまとめている先生、それはそれは大変です。
見るからに全力投球で、園児たちに負けないように大きな声で指示を出し、走り回る。
それも笑顔を絶やさずブチ切れず。まさに肉体労働そのものです。

一番最初に目の当たりにしたときは、正直圧倒されてしまい、新鮮なショックでした。
しかし、終わって帰る頃には爽やかな敗北感とエネルギーを注入されて、いい気分です。

◆ 幼稚園でやること

当日の指定された時間に、園に向かいます。
玄関入り口はカウンターみたいになっていて、向かって右側が廊下になっています。
廊下を進んですぐの部屋が職員室になっているので、まずそこでご挨拶をして着替えをします。

その間にも、廊下の外には、母親に手を引かれた新入園児たちが何組か、
せわしなく行きかっています。先生方もまけじと?!せわしなく行きかっています。

準備が整うと、指定された部屋に向かいます。
1月は、ある教室ですが、6月はなんと突き当たりの講堂で行います。
広さは、そうですね、剣道のコートが2面取れるくらいでしょうか。

スタイルとしては、ちゃぶ台のような低いテーブルの横に、幼稚園児用のいすがあり
私がそれに座って行います。横にはひとりの先生がアシストとして付き、
記録をとったり園児の誘導をしたり、他の先生にミラーの消毒の指示を出したりします。

なぜそのようなスタイルかというと、普通の座面700のいすに座ると高すぎるからです。
幼稚園の検診なので、専用の設備はありません。というか、園児は「きおつけ」です。
それでも園児用のいすですら高過ぎて、気がつくと”先生”が地べたにしゃがんだり
正座していたりすることもしばしばです。

燃え滾る火の玉を何十発も(百何十発も)食らって、すっかり幸せになって
フラフラになりながら、職員室に戻ってくると、そんなにまだ時間がたっていません。
帰りに少しお茶が出ます。話の中心はいつもネタの王様こと山村先生です。
とても博学で物知りなので、私はふんふんいっているだけで良く、楽?!です・・・

これでおこづかいまで頂いてしまったら、ばちがあたりそうですが。。

◆ 保健センターの検診との違い

◇ 保健センターの場合

保健センターの場合は、あらかじめ剣道のコートが1面取れるほどの大部屋のすみに
職員室用のようないすと机が置いてあります。
中心の大部分はカーペットになっており、そこにあらかじめ親子が座って待っています。

このように、基本的に知らない者同士なので、保健センターは少し落ち着いています。

また、3歳のときは半分程ですが、1歳6ヶ月のときは100%向かい合わせ抱っこで行います。
まず親と歯科医師が向かい合わせで座り、親が子供と向かい合わせ抱っこをします。
そこからこどもが、歯科医師のひざの方、後方に「ごろん」をするわけです。
また、簡易照明ですがライトがあります。ですから、割合落ち着いて診られます。

もちろん子供たちの中には、キラーコワルスキーや永源遙も多く、先生はヤラレっぱなしです。
しかし必ず親が付いていますので、ある程度子供は観念してヤラレてくれます。天然ブック?!
ただ親同伴の場合は、かならず説明とか指導をしないといけないので、時間はかかります。

◇ 歯式

「歯式」という、歯の記録をする表のようなものがあります。
上下左右8個の枠に歯の状態を記入していくときの「部位」のことです。
詳しくはこちらのページをご覧下さい。

これが、歯医者によって本当にまちまちなのです。
私は、ある歯を特定するときは「右or左 上or下 ●番」(例:右上6番、左下3番)と呼び、
検診のときに特に指定されない限りは、FDI歯式の番号にのっとって

 右上奥歯 ⇒ 左上奥歯 ⇒ 左下奥歯 ⇒ 右下奥歯

に向かって記録していきます。保健センターでもそうです。
(あくまでも順番だけで、実際にFDIのように右上8番を#18と呼んだりはしません)
しかし幼稚園では、前任者が

 右下前歯 ⇒ 右下奥歯 ⇒ 右上奥歯 ⇒ 左上奥歯 ⇒ 左下奥歯 ⇒ 左下前歯

の順番で行っていたので、現場の混乱を控える意味で私もそれに合わせています。
また、以前の勤務先で、

 左上前歯 ⇒ 左上奥歯 ⇒ 左下奥歯 ⇒ 左下奥歯 ⇒ 右上奥歯 ⇒ 右上前歯

という順序で記録していたところもありました。
どうしても歯科は個人事業主や小規模法人が多く、先生の好みでまちまちになりがちです。
ですから初めて検診に赴くときは、かならず歯式の方向を確認するのが最初の仕事です。

◇ 幼稚園の場合

1月は、教室の中で私とアシストの先生だけが待っていて、親子連れが順番に
部屋に入ってくる形式なので、部屋はそれなりに静かです。

問題は6月です。

150人以上の園児たちが、パンツ一丁で「ダーッ」と講堂に並びます。
あふれた子供たちの行列は、一部廊下にまではみ出しています。
さらに各教室にそれぞれパンツ一丁の一個小隊が群れを成して後方を固めています。
うるさいのうるさくないのって、そりゃもう、以前歯科医師会の旅行で行って驚いた、
中国深セン駅前の「何とかしろ城」というビル内の大食堂の大量の中国人の食事風景をも
軽く上回りそうな有様です。

(こりゃ、日本の未来は大丈夫かもだわ)普通に思えます。先生方、死に物狂いです。

しかし、コレだけにぎやかなのに、とってもみなさんお行儀が良くお利口さんなのです。
先生のそばの部分だけは行列も静かで、自分の番が来ると、タッタッタ~と小走りに駆け寄り
「こんにちは」と挨拶すると「っこんにちぅあ~っ!!」と満面の笑みで返し、ぱっと起立します。

これでオジサンは軽くノックアウトされてしまい、気分良くなってしまうのです。
もう、カワイイかわいい可愛い(*°∀°*)(n’∀’)η゚(*≧∇≦*)・*:.。..。.:*・゜゚・*

基礎教育はすごくしっかりしています。さすがの肉体労働の賜物と、感心するばかりです。
本当にみんな上手なので、一部の数名を除いてはかなりスピーディーに終了します。

◆ 幼稚園児を診て気になること

◇ 鼻唇溝

おはな ぷーーんしてこよっかぁ~♪

◇ 齲蝕

歯科の話に戻ります。

歯の生える早さとかには若干の個人差がありますが、それほどではありません。
差が大きいなと思うのは、まず、むし歯の本数です。

このご時世、親も予防歯科の勉強をしており、仕上げ磨きやフッ素に気を配る所も多く
ほとんどの子供にむし歯はありません。

ごく一部のある子に集中してあるのです。そういうことです。

出来やすい場所も決まっています。むし歯のある子のほとんどが、EとDの接点に作るのです。

(上図の赤いところです;[歯チャンネル]より引用)

これは私の医院をおとずれるお子様にも共通する特徴です。
その他、多い子だと、上の前歯のすきま、上の前歯の表面などが多いです。

◇ 上唇小帯

上唇をつまむと、上の中心の前歯と前歯の間から唇に向けてスジがあります。
これが上唇小帯(じょうしんしょうたい)です。

これが歯の生え際に非常に近いところ、極端な場合は歯と歯の間あたりから立ち上がって、
すきっぱになってしまっていることさえあります。

検診で見ていると、こういうお子様が10人に1人くらい見られ、意外に多く感じます。

こういうお子様は、仕上げ磨きのときにこすれて、痛がって嫌がるパターンが多いようです。
上の前歯のところだけは縦磨きしてあげるといいでしょう。

◇ 咬合

反対咬合(上より下が前)とか2級(下顎が後ろ)のお子様はまだ多くありませんが、
なっているケースでははっきりとなっています。

叢生はたまにあります。
乳歯の場合は、むしろ霊長空隙など、歯と歯の隙間が開いているほうが普通ですので
乳歯の段階できつきつですと、まちがいなく永久歯でもきつきつになります。

矯正医や小児専門医がよく言っているのは、タイミングとして上下4前歯が生え変わった頃
一度、専門の先生に見せた方が良い、ということです。
時期的に小学2年前後になると思います。

◇ 癒合歯

数十人に1人くらいの割合でいます。
歯2本の変わりに、歯2本分の幅の広い歯が1本生えてくるものです。下顎のA-Bに多いです。
こういうお子様は、永久歯も同じように癒合歯で生えてくることが多いのです。
こんなご時世で、余計な被曝はあまりしたくはないものですが、乳歯が癒合しているときは
一度永久歯胚(永久歯の芽)をレントゲンで確認しておくことが大事です。

癒合歯は病気ではないとされていて、治療対象ではありませんが、審美的に気になるときは
結局成人になってから抜いて矯正とか抜いてインプラントになってしまうようです。

◆ 幼少時(就学前)に気をつけること

詳細は小児専門医になりますが、あくまで一般医からの視点でお話します。

◇ むし歯予防

むしば歯の原因は 「砂糖」 「歯」 「むし歯菌」 「時間」 の4つです。

これらのうちどれかひとつ落とせばむし歯になりません。
一番簡単なのは「砂糖(ショ糖)」ですが、現代社会ではそれは事実上不可能です。
ですが、甘いものを与えすぎない、与えたらまめに仕上げ磨きする、などで
回避可能です。

現実的に一番簡単なのは「むし歯菌」です。

最近はいろいろ知れ渡り、赤ちゃんにキスや口移しなどはなくなりましたし
仕上げ磨きや、かかりつけの歯科医院での定期的なフッ素塗布も一般化しました。

ただ、どうしても子供が抵抗したりすると、つい仕上げ磨きの手が緩みがちです。
基本的に、奥歯はE-Dの間が危険なので、フロスが有効です。
お勧めは、ライオンのウルトラフロスです。


これのもっともすぐれている点は、フロスの糸が柄に対して垂直なことです。

ドラッグストアなどの歯ブラシ売り場のフロスを、一度確認してみてください。
全部が全部といっていいほど、フロスの糸が柄に対して平行、同一延長線上です。
これでは奥歯では使いづらいですね。

ウルトラフロスで必ずE-D間を仕上げ磨きしてあげれば、一番の危険地帯を
しっかり抑えることが出来ます。

ちなみに、むし歯予防には、19~31ヵ月(1歳半~3歳)が勝負で、そこをうまく乗り越えると
将来カリエスフリー(むし歯知らず)の大人になれる可能性が高いです。
逆にそこでやらかすと、歯医者と縁の切れない残念な人生の可能性が高いです。

ここが勝負です。

◇ その他

私の場合は咬爪癖(こうじょうへき)がなかなか治らず、グリッサンドに向かない
残念な指になってしまったのを大人になってから後悔しても遅かったのですが
小さなお子様は指しゃぶりなどいろいろな癖があるものです。

〔口呼吸〕

鼻が悪かったりすると、口で呼吸しがちです。
そのような場合に、上顎の内側を見てください。
口蓋(口の天井)が深く、V字型に切れ込んだりしていませんか?

このような場合、全員ではありませんが、嘔吐反射が強めなことが多いです。
「オエッ」となりやすいのです。

成人でこの手の方が来た場合、まずまともに型は取れないだろうと覚悟します。

しかし、嘔吐反射は自律神経と連動しています。
ということは訓練次第で十分に延長が可能なのです。

お子様はややかわいそうですが、少しがんばって根気良くみがいてあげて
終わったら必ずほめるようにしてあげてください。

それがその子の一生の財産になると思います。

〔舌突出癖〕

ゼツトッシュツヘキ?!何だそりゃ、とお思いかもしれません。

これは、舌先を上下の前歯の隙間に押し付ける癖です。
絶対やめさせたほうがいいです。

これを放置すると、「開咬」というかなりみじめな状態になります。
開咬とは、奥歯でかんでも、前後左右に動かしても、上下の前歯が触れ合わず
奥歯だけがゴロゴロ接触する状態です。

「パスタ(麺類なら何でも可)、どうやって切ってる?」

こう質問して、すぐ答えが出てこない人は、十中八九、コレです。

これでは奥歯は通常の人の倍の力に晒されることになりますから
すぐにむし歯になったりかけたりしてしまい、さらに
つめてもつめてもすぐ壊れ、より拡大してしまいます。

残念ながら、これは舌突出癖を治さない限り、矯正しても戻ってしまい治りません。
奥歯に詰め物をしても、早めに崩壊する可能性が高いです。

矯正専門の先生に相談してクセ直しの装置を作ってもらうのも有効ですが
手っ取り早くは、舌先を押し付ける場所を、上の前歯の生え際より5ミリほど
奥(=上)にするよう指導してしまうことです。

◆ まとめ

このように、お子様の歯の健康やむし歯予防に対して、できること・すべきことは
たくさんあります。

前々回に申したように、歯科は自然治癒せず、回避可能な疾患なので、
対応としてはまずは予防の一手が絶対条件です。

さいごに
お子様は自分で自分を守ることができません。
(大人でさえ碌に歯みがきできないというのに!!)
子供のむし歯は周りの大人の努力が全て、100%です。

【今回のまとめ】

その子の将来のために、幼少時にしてあげられることがたくさんあるのに忘れられている

2012/01/24 08:00 | nemoto | No Comments