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『華氏911』
この映画でムーアはアメリカのイラク攻撃を批判するためにある戦略を使っている。
彼はこう推論する。ブッシュが同時多発テロとサダム・フセインとを
強引に結びつけてイラク戦争を起こしたと。
この推論を正当化するのに都合のよいシーンだけカッティングし、
時系列を無視して貼り付けていく。
そう。この映画は一種のパズルなのだ。
あらかじめこうに違いないというムーアの思い込みがあって、
このフレームにアトランダムに集められたピースをはめ込んでいくと
イラク戦争反対のプロパガンダの出来上がりというわけだ。
ある演説でのブッシュの「サダム」というセリフ。
別の演説での「アルカイダ」というセリフ。
この関係ない二つのピースを隣あわせにはめ込むと別の「真実」に変化する。
さらに「サダム」「アルカイダ」「サダム」「アルカイダ」と繰り返すことで
観客の思考を麻痺させ、「ムーアの真実」を刷り込んでしまう。
ムーアをこの映画に駆り立てた動機はいったい何だろう。
それはカンヌのインタビューでもいっているように
アメリカ人に真実を知らせたいというムーアの使命感にも似た情熱だ。
アメリカはダブル・スタンダードで動いている。
表のスタンダードが世界平和への貢献、裏のスタンダードが覇権主義。
これまでアメリカは一貫して表のスタンダードを国際世論にアピールしながら
裏のスタンダードの実現に邁進してきた。
これもまた紛れのない真実である。
ベトナム、湾岸、コソボ。時代が下るにつれ裏のスタンダードが顕在化するようになり、
イラク戦争で真実が決定的に露見してしまう。
ムーアはここぞとばかりに裏のスタンダードというパンドラの箱を開けた。
しかし箱から出てきた真実は皮肉にも彼の仕掛けたパズルの中で
歪曲された「真実」となっていくのだ。
せっかくの真実が観客にそう受け取られてしまうならば、
過剰な彼の戦略がかえってブッシュを擁護することになってしまう。
反ブッシュ反イラク戦争プロパガンダとなるかその逆となるかが
観客の眼力しだいだとしたらせっかくの戦略もいささか毒気が強すぎたといえるだろう。